『ワレサ 連帯の男』
原題 | Walesa. Czlowiek z nadziei |
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制作年・国 | 2013年 ポーランド |
上映時間 | 2時間04分 |
監督 | アンジェイ・ワイダ |
出演 | ロベルト・ヴィェンツキェヴィッチ、アグニェシュカ・グロホフスカ、マリア・ロザリア・オマジオ、ミロスワフ・バカ |
公開日、上映劇場 | 2014年4月5日(土)~岩波ホール、4月26日(土)~テアトル梅田、京都シネマ、5月3日(土)~シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開 |
~国を動かした“偉大な電気工”とは?~
ワレサの名は“希望の星”だった。遠い国ポーランド事情に明るいわけではないが、苦渋に満ちた国であることは60年代からの数々の映画で知った。『灰とダイヤモンド』『地下水道』…巨匠アンジェイ・ワイダ監督が描き続けてきた。
ポーランドは第2次大戦中はナチス・ドイツに傷めつけられ、終戦後は共産主義ソビエト連邦の思想統制で自由を封じ込められた。そんなソ連に対して立ち上がったのが自主管理労組「連帯」のレフ・ワレサ議長(ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ)だった。
時は70年~80年代、ソ連はブレジネフ書記長が威勢を誇っていた。大国を相手に、自由を求めて戦った伝説の男、ワレサ議長って、一体どんな人物なのか? 長年、友人だったというワイダ監督が描くワレサ像は、意外にもヒーローとは無縁、6人の子供を持ち、しっかり者の妻には頭が上がらない普通のお父さんだった。ワイダが『大理石の男』『鉄の男』で描いたような“労働英雄”に違いないだろうが、庶民的で親しみやすい、何の変てつもないヒゲおやじ。かっこよさとは無縁。友人だからこそ出来る、きわめてフレンドリーな庶民ヒーロー像。そこに、苦渋に満ちた国の“指導者像”が見えた。
世界中の多くの人々が飢えに苦しんでいた時代、共産主義は多くの人々に希望を灯した。だが、夢のようだった理想社会はソ連の崩壊や中国の変ぼう、北朝鮮の現状を見れば裏切られた感が強い。とりわけ痛切だったのが東欧諸国だ。民主化運動がソ連の戦車に蹂躙された悲劇“プラハの春(68年3月)”はその典型。第二のプラハの春かと思われたポーランドは違った。立役者は「連帯」、それを率いたワレサ議長だった。
映画は、イタリアの有名女性ジャーナリスト、オリアナ・ファラチがインタビューのためワレサの自宅を訪れるところから始まる。80年代はじめ、グダンスクの造船所で普通の電気工として働いていたワレサは、70年12月の争議で公安局の誓約書に署名したことを悔いる。騒動を納めるために取った行為が、その後の彼を決定付けた。60~70年代に動かなかったことがその後の運動に大きな影響を与えた、と大島渚監督(故人)は指摘する。
80年の争議では「連帯」初代委員長としてストライキを指導する立場になっていた。彼は厳格なリーダーではなく、ストライキも統制の取れたものではなかった。バラバラになりそうな組合員を何とかまとめようとする苦労人といった風情。こんな老組合員は実際に過去、何度も目にした。決して得することなどないのに、仲間たちのためにトップに立ってしまう、伝説の男の実像はこういう風だった…。
普通の男の“戦いの足跡”には味わいがある。赤ちゃんの乳母車に非合法ビラを隠していたために娘と一緒に逮捕され、娘のおしっこでワレサも警察も大弱りするところが笑える。
翌81年12月、戒厳令が敷かれてワレサは軟禁され、活動家仲間との接触も禁じられる。政府への協力を求められるが、達者な弁舌で拒否し続ける。困難の状況の中で、男は鍛えられていた。
ワレサとともに感心するのは妻グヌタ(アグニェシュカ・グロホフスカ)の存在だ。子だくさんな“主婦のボヤき”もまた笑いを誘うが、夫を信じて、公安局の家宅捜査には毅然と立ち向かい、自宅に仲間や関係者たちが大挙押し掛けると「チフス発生。立ち入り禁止」と張り紙して追い払うなど、夫人の強さ、したたかさが闘争を支えたように思う。
歴史の流れの中で、ワレサの登場はまるでタイミングを測っていたかのようにも見える。翌82年11月、ブレジネフ書記長の死去で運命が変わる。解放されたワレサはグダンスクの民衆に熱狂的に迎えられ、83年ノーベル平和賞の受賞式にはグヌタ夫人が出席した。このあたりがワレサ=連帯の絶頂期だったのではないか。
89年、ついにベルリンの壁崩壊。東欧の民主化運動は東西の壁を壊すという偉大な成果をもたらした。泥臭い議長が率いた連帯はかくも大きな力を持っていたのだった。その後、ワレサは大統領にまで登りつめる(90年)が、連帯は分裂を重ねて支持率も低下する。これもまた歴史の流れだった。
抑圧された人間が反抗に立ち上がるのは共産主義思想が生まれるよりもはるか昔、奴隷解放に立ち上がったスパルタカスの時代からあった。ベルリンの壁崩壊後、ワレサはワシントンの米国議会に招かれ、合衆国憲法にならって「我々民衆は自由を求める。自由は人間の権利だから」とスピーチした。それは主義思想などとは無縁、すべての人類に共通する根元的な欲求に違いなかった。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://walesa-movie.com/main.html
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