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『それでも夜は明ける』

 
       

soredemo-550.jpg『それでも夜は明ける』

       
作品データ
原題 12 Years a Slave 
制作年・国 2013年 アメリカ・イギリス 
上映時間 2時間14分
原作 ソロモン・ノーサップ
監督 スティーヴ・マックイーン 脚本:ジョン・リドリー
出演 キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ギャレット・ディラハント、ポール・ジアマッティ、スクート・マクネイリー、ルピタ・ニョンゴ
公開日、上映劇場 2014年3月7日(金)~TOHOシネマズ みゆき座、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ(なんば、二条、西宮OS)、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー
受賞歴 ★第86回アカデミー賞 3冠達成! ①作品賞 ②助演女優賞(ルピタ・ニョンゴ) ③脚色賞(ジョン・リドリー)

 

~それでも生き抜く!人間の尊厳をかけた男の闘い~

 

 今までアメリカの人権問題をテーマにした映画を数多く見てきた。特にアフリカ系アメリカ人に対する差別を扱った映画は、『招かざる客』『アラバマ物語』『カラーパープル』『アミスタッド』『マンディンゴ』『グローリー』『ミシシッピー・バーニング』等々、ひとつのジャンルをとして括れるくらい多い。先日の第86回アカデミー賞作品賞に輝いた本作は、他にも助演女優賞と脚色賞も受賞。『SHAME―シェイム―』で人間に潜在する欲望、衝動、孤独、葛藤などをクールで挑発的な映像で抉り出したスティーヴ・マックイーン監督が、今回はアメリカ奴隷制度に見る暴力と忍耐、そして人間の尊厳をかけた闘いの尊さを謳い、またもや世界に問う衝撃作を打ち出した。

soredemo-2.jpg 本作は、南北戦争(1861~1865)が始まる前の1853年に出版された一人のアフリカ系アメリカ人ソロモン・ノーサップの回想録を基に作られている。生まれながらの自由な身分のソロモンが、誘拐された挙句12年ものあいだ南部の農園で奴隷として酷使されたという驚愕の実話。財産の一部として家畜のように売買され、人間の尊厳も何もかもが踏みにじられる屈辱と、暴力を振るわれる苦痛。自ら死を望みたくなる状況ながらも、「家族の元に帰りたい」というかすかな希望を頼りに、苦しみに耐えて生き抜く。人はどこまで残酷になれるのか、人はどこまで耐えられるのか。


 【STORY】
 アメリカ北部ニューヨーク州で妻と二人の子供の4人で平穏に暮していたソロモン(キウェテル・イジョフォー)は、生まれながらに自由な身分を保障されたバイオリニストで、白人たちとも対等に接していた。ところが、二人の興行師に騙されて奴隷商人に売られてしまう。気が付けば他の黒人たちと一緒に鎖に繋がれ、鞭打たれ、名前も全て取り上げられ、南部の奴隷市場で全裸にされ、競りに出される。過去の身分も名前も教養も、決して明かしてはならない。ひたすら、地を這う家畜に徹することが生き抜く秘訣だと、他の奴隷に教えられる。

soredemo-3.jpg 最初にソロモンを買った大農園主のフォード(ベネディクト・カンバーバッチ)は、他の奴隷にはないソロモンの才能を気に入り優遇したが、それを快く思わない白人の大工ティビッツ(ポール・ダノ)に、執拗にいたぶられる。ドラブルを避けたフォードは、借金返済のためソロモンをエップス(マイケル・ファスベンダー)に売り渡す。エップスは広大な綿花農園主で、毎日奴隷一人一人の綿の収穫量を測っては、規定量に達しない奴隷を鞭打っていた。それは異常なほどサディスティックで、次第にエスカレートしていった。

 エップスは、綿を一番多く収穫できる可愛らしい奴隷パッツィー(ルピタ・ニョンゴ)がお気に入りだったが、妻の嫉妬の目を避けるように余計に暴力を加えていた。パッツィーはエップスの暴力に耐え兼ねて、ソロモンに「殺してくれ」と頼むが拒否され、さらに悲劇が彼女を襲う。地獄のような奴隷生活の中、ひたすら耐え抜くソロモン。ある日、カナダから来た白人の大工バス(ブラッド・ピッド)と知り合い、最後の望みを彼に賭ける。


soredemo-4.jpg  誰も信じられず、心を癒すものもない。黒人を執拗に憎む集団にリンチにかけられたり、家畜以下の扱いを受けたり、いつ終わるとも知れない奴隷生活の中では、絶望を超越し心を殺して環境に順応して生きるしかなかったのだろう。牧師でもあった最初の主人フォードも、奴隷たちに優しかったが、結局は奴隷制度を容認しており、財産の一部としか捉えていなかった。奴隷制度そのものが人の心を歪めていたことがよく分かる。その後、時代は奴隷制度廃止運動や南北戦争へと進展していった。

 アカデミー賞作品賞に輝いた本作だが、授賞式では監督を始め、プロデューサーのブラッド・ピットや主演・助演の俳優たちも大勢ステージにあがり、みんなで喜びを分かち合っていた。本作へ込めた熱い想いが伝わってくるようだ。

(河田真喜子)

 公式サイト⇒ http://yo-akeru.gaga.ne.jp/
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