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『白ゆき姫殺人事件』

 
       

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作品データ
制作年・国 2014年 日本
上映時間 2時間6分
原作 湊かなえ著『白ゆき姫殺人事件』集英社刊
監督 中村義洋
出演 井上真央、綾野剛、菜々緒、蓮佛美沙子、貫地谷しほり、谷村美月、金子ノブヒロ、染谷将太
公開日、上映劇場 2014年3月29日(土)~丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、OSシネマズ神戸ハーバーランド、MOVIX京都、T・ジョイ京都他全国拡大ロードショー

 

~ネットとリアルで増幅するゴシップに隠れた真実~

 

本当に真実を捉えることが難しい世の中になった。Twitter社全面協力のもと、裏付けのない事実に泳がされる世論や、ツィートの反響が恐怖を誘う今の時代を象徴したサスペンスが誕生した。湊かなえ原作ならではの人間(特に女)の嫌らしさを『ゴールデンスランバー』の中村義洋がテンポよく描き出すと同時に、一人称で語られる人間の記憶がいかに自分勝手なものかを痛感させられる。

 

sirayuki-3.jpg長野県しぐれ谷の山中で、全身をメッタ刺しされた焼死体が発見される。被害者は化粧品会社美人OLの典子(菜々緒)で、地元局の外注TVディレクター赤星(綾野剛)は元カノで典子の部下だった美紗子(蓮佛美沙子)より、容疑者は典子の同期、城野美姫(井上真央)に違いないと告白される。単独で美紗子や美姫の同僚、付き合っていた上司に取材し、美姫は典子の同期だが、地味な存在で付き合っていた上司を横取りされていたと証言され、事件当日夜から失踪していたことが明らかになるのだが……。

 

sirayuki-2.jpg赤星の取材という形で、会社の人間、実家周りの人、同級生などにインタビューした映像が次々と登場する。犯人という前提で彼らが語る美姫像は、いかにも何かしそうな悪意に満ちたコメントばかり。どこまでが事実でどこまでが推測なのか、事実はかけらもないのではないか。そんな予感がよぎる中、それらの証言がテレビのワイドショーでさも有力証拠を集めたかのように編集され、オンエア後世間が一気に美姫バッシングをする様はリアルすぎて失笑ものだ。また、守秘義務もなんのその、事件を追いかける様子を逐一Twitterでつぶやく赤星とフォロワーとのやりとりが映像に重なり、リアルタイムの盛り上がりや炎上、あっという間に美姫の個人情報が突き止められるところまでを描写。SNSの危険な一面も赤裸々に露呈している。

 

sirayuki-4.jpg容疑者となってしまった美姫本人の証言がない中、美姫の内面を知る一つの鍵となるのはモンゴメリ作の『赤毛のアン』だ。赤星が美姫の幼馴染、夕子(貫地谷しほり)を取材したときに、二人はお互いをアン、ダイアナと呼び合うほど『赤毛のアン』が好きで、作品に登場する秘密の合図を出し合っていたことが明かされる。夕子がクラスの美人女子に妬まれ、いじめられるようになってからも夕子と行動を共にし、空想の世界で自分を保ってきた美姫は、本当に魔女のように人を殺める人物なのか。夕子が「人は自分の都合のいいように記憶をねつ造する。大事なことを見逃すな」と赤星にくぎを刺した台詞が、観客にまで突き刺さる。

 

最後にようやく犯人扱いされてきた美姫が自分自身について語りはじめる。他人の悪意に満ちた記憶が真実にすり替わっていたことを目の当たりにしたとき、本作の本当の怖さが押し寄せてくるのだ。井上真央をはじめ、人間の表と裏を演じ分けた女優達の熱演だけでなく、ジャーナリストの風上にも置けない薄っぺらい人物像の赤星を演じた綾野剛が見事にはまっている。そして何よりも、ラストシーンの赤星の姿が“白ゆき姫殺人事件”騒動の全てを物語っていた。
(江口由美)

公式サイト⇒http://www.shirayuki-movie.jp/
(C) 2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 (C) 湊かなえ / 集英社