原題 | ONE CHANCE |
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制作年・国 | 2013年 イギリス |
上映時間 | 1時間44分 |
監督 | デヴィッド・フランケル 脚本:ジャスティン・ザッカム 楽曲吹き替え:ポール・ポッツ |
出演 | ジェームズ・コーデン、アレクサンドラ・ローチ |
公開日、上映劇場 | 2014年3月21日(金・祝)~TOHOシネマズ有楽座、新宿バルト9、TOHOシネマズ梅田、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、なんばパークスシネマ、OSシネマズミント神戸、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都他全国ロードショー |
~冴えない人生に大逆転をもたらす「好き」の力と奇跡の歌声~
最近ちょっとやそっとのラブストーリーや難病もの、親子物語では泣けなくなってしまった私だが、クライマックスに主人公ポッツが披露したオーディション番組でのオペラ「誰も寝てはならぬ」の歌声を聞き、思わず涙が溢れた。しかし、人の心を揺さぶる魂の歌声を堂々と披露できるようになるまで、彼には幾多の不運と挫折があった。イギリスの人気オーディション番組で優勝したことを機に、世界的オペラ歌手となったポール・ポッツの実話を、『プラダを着た悪魔』のデヴィッド・フランケルが実に温かく、登場人物の個性を際立たせながら、歌と愛に溢れた感動作に仕立て上げた。オペラ好きだけでなく、非モテ男子も必見だ。
子どもの頃からオペラが大好きだったポール・ポッツ(ジェームズ・コーデン)は、モテることもなく、学校の男子にはいじめられ、オペラ歌手になる夢を胸に秘めたまま携帯電話の販売員をしているポッチャリ男子。1年間メル友だったジュルズ(アレクサンドラ・ローチ)と初対面を果たし、意気投合したボッツは、ジュルズに夢を語る。ポッツに夢を叶えるため留学するよう促したジュルズの言葉に応え、ポッツは見事コンテストに優勝した賞金でイタリア留学を果たす。だが、憧れのパヴァロッティに「君はオペラ歌手には絶対になれない」と断言され、失意のどん底に落ちてしまう。
母親は息子の才能を信じるものの、父親は学生時代にラグビーで脚光を浴びたことがいまだに自慢のブルーカラー労働者で、息子のことを歯がゆく思っている。そんな冴えない日常に射した一筋の光がメル友だったジュルズの存在だった。ポッツの才能を信じるジュルズの気持ちは、一切揺るがない。容姿はパッとしないが、その心の美しさと歌の才能に惚れぬいたジュルズは本作の影の主役で、恋人から夫婦となり、どんな苦境でもポッツをどっしりと支えていく。ジュルズの精神的な支えこそ、その後ポッツが幾多のどん底期を乗り越え、運命のオーディションを受けようと決意する原動力となっていたのだ。
それにしてもポッツに降りかかる災難たるや!そこはむしろギャグのようなあしらいでコミカルに描写している。ここまで災難続きの人生を見ると思わず同情したくなるが、ポッツのいいところは思考がネガティブすぎないことだ。自分に自信はないものの、歌えるということが全ての不安を取り払う。ポッツに神が与えた才能は、やはり彼をいつまでも不運な人生には置いておけなかったのだろう。
オーディションも人生の伴侶も、まさにワンチャンス。でもワンチャンスをものにできれば十分だ。歌に溢れ、イギリスやイタリアの街並みが清々しさを醸し出す物語は、不幸も人生のエッセンスかのような「ケセラセラ」的しなやかさを秘めている。これだけ何度も夢を諦め、それでもオペラを歌うことが好きで仕方なかったポッツの歌声が、感動を呼ばない訳がない。幾多の苦難を夫婦で乗り越えたからこそ出せる歌声は、ポッツの味わい深い人生そのものに思えた。(江口由美)
公式サイト⇒http://onechance.gaga.ne.jp/
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