『神さまがくれた娘』
原題 | God's Own Child |
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制作年・国 | 2011年 インド |
上映時間 | 2時間29分 |
監督 | 監督・脚本:A.L.ヴィジャイ |
出演 | ヴィクラム、ベイビー・サーラー、アヌシュカー、アマラー・ポール、ナーセル、サンダーナム |
公開日、上映劇場 | 2014年3月8日(土)~シネマート心斎橋、3月17日(土)~シネ・ヌーヴォ、4月5日(土)~京都みなみ会館、近日~元町映画館 他全国順次公開 |
~「手遊び」からあふれる親子の情愛と月の輝き~
アメリカ映画『アイ・アム・サム』(‘01)に感銘を受けたヴィジャイ監督がインドのスタッフ・キャストと共に壮大なスケールで描いた一大抒情詩。しかし、その世界観はまるでちがう。親子の絆をテーマにしながらアメリカ社会そのものを浮き彫りにした『アイ・アム・サム』に対し、本作が描き出した世界は一体なんなのだろう。懐かしい温もりに包まれたような、いい夢を見て目覚めたときの余韻のなかにいるような、それは不思議な心地よさなのだ。
冒頭から“ニラー”“ニラー”という呼び声がしている。それはまるで何かの呪文のようで何ともミステリアスなはじまりだ。“ニラー”とはタミル語で月を意味する、クリシュナ(ヴィクラム)の一人娘の名前だ。
クリシュナは知能の遅れから19年間を療養施設で過ごすが、今はチョコレート工場で働きながら愛する妻と新しい命の誕生を心待ちにしている。この情景描写にたちまち引き込まれる。インド映画特有のダンスと音楽がその歓びを歌い上げ、インド南部の田舎町の風景とクリシュナの高揚感がみごとにマッチし、その後のニラーの成長とあいまって、スクリーンからは幸福感があふれ出している。
しかし、牧歌的な雰囲気から一転、義父に娘を奪われ、後半は都市部での緊迫した法廷劇が始まる。
インド映画ではボリウッドが有名だが、そのすそ野は豊かに広がる。およそ35の言語圏ごとに映画が製作されており、インド南部のタミル語作品で活躍するのがクリシュナを演じたヴィクラム。その演技力には定評があり、本作でも6歳児の知能という演技にとどまらず、同時にその年齢の持つ純粋な聡明さを感じさせる。ニラー(ベイビー・サーラー)をみつめるまなざしの温かさ、見返すニラーの愛くるしい表情。身振り手振りのなかにも二人の間には確かな絆が感じられる。それはまさに二人だけに通じる言語だ。物語の要所要所に登場する「手遊び」には親子の情愛があふれ、心がじんわり、見ているだけで幸せな気分になる。国は違えど、世界共通のぬくもりがそこにあるのだ。だからこそ、その後の展開に胸を引き裂かれるような痛みが生まれる。公判中、会うこともままならぬ親子は同じ月を眺めながらお互いを想う。
ヴィクラムがニラーに冒険活劇を話して聞かせるシーンではここぞとばかりユーモアがあふれる。ミステリーに始まり、コメディ、ミュージカル、ヒューマンドラマ、色々な要素が盛り込まれているにも関らず、独特な効果音や構成の妙で矛盾なく見せる。しっかりとした物語に根ざしつつエンターテインメントとしても完成された、みごとな1本の寓話が生まれた。
(山口 順子)
公式サイト⇒ http://www.u-picc.com/kamisama/
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