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『旅人は夢を奏でる』

 
       

RoadNorth-550.jpg『旅人は夢を奏でる』

       
作品データ
原題 Tie pohjoiseen (英題:ROAD NORTH)
制作年・国 2012年 フィンランド 
上映時間 1時間53分
監督 監督・脚本:ミカ・カウリスマキ
出演 ヴェサ・マッティ・ロイリ、サムリ・エデルマン、ペーテル・フランツェーン
公開日、上映劇場 2014年2月22日(土)~梅田ガーデンシネマ、近日~京都シネマ、元町映画館

 


~清濁併せ持った父が息子に伝えたもの~


 

 音楽は人を表すというが、これほどあたたかく心地よい歌声を聴いたことがない。どっしりとして、包容力があり、心の澱が溶けていきそう…。劇中、即興のセッションで奏でられる「枯葉」を聴いて、きっと誰もがこの映画を観てよかったと思うにちがいない。

RoadNorth-2.jpg ピアニストとして活躍中のティモの前にいきなり現れた、派手なシャツを着た巨体の男は、35年間も消息不明だった父のレオ。父はティモを車で連れ出し、北に向かう旅へと誘う。元ミュージシャンで各地を飛び回っていたと話すが、パスポートは偽造で、車も盗難車と、ちゃらんぽらんで得体が知れない。それでいて、ざっくばらんで、親しみ深い父と、きまじめで仕事一途な息子との距離は、ティモの異母姉、祖母を訪ねる道中で、しだいに縮まってゆく。

RoadNorth-4.jpg 旅の終わり近く、幼い娘を連れて実家に帰ってしまったティモの妻のいる街へ、レオはためらうティモを半ば強引に連れてゆく。憎み合って別居したわけではない。ささいなすれ違いが度重なりいつしか気持ちが遠く離れてしまい、距離的にも離れ、仲直りする機会を見つけられなかっただけ。ティモは父に勇気づけられ、自分の想いを妻に打ち明けようとする。夫婦が近づきあい、優しさを取り戻すシーンがいい。

RoadNorth-3.jpg 父と息子のロードムービーを描いた映画は幾つもあるが、本作がひときわ魅力的なのは、父レオのユニークな人物造形。レオを演じるのは、ヴェサ・マッティ・ロイリ。フィンランドの演技派俳優で人気ミュージシャン。サンタクロースのように太っていて、ひげもじゃでいい加減な男の息子への真摯な愛情が、旅が進むにつれ、鮮明にみえてくる。おしつけがましくもなく、ユーモアで包み込むような、おおらかな愛。レオの存在そのものが、人生を肯定してくれているようにも思える。そんな父に感化され、ティモも、頑固なこだわりや思い込みから少しずつ解放され、人生を楽しむことを知ってゆく。ティモを演じるサムリ・エデルマンも俳優・歌手で、二人の奏でる音楽も本作の魅力の一つ。テオがティモや孫娘に語る物語は、哲学的で難解だが、テオの深い愛情を伝え、心に残る。

 さりげない優しさを詰め込んだ本作は、すてきな音楽とともに、窓から流れ込む春風のように、もっと肩の力を抜いて生きてごらんと語りかけてくれているようだ。

 (伊藤 久美子)

公式サイト⇒http://www.alcine-terran.com/tabiyume/

 (C) Road North

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