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『ブエノスアイレス恋愛事情』

 
       

buenosu-550.jpg『ブエノスアイレス恋愛事情』

       
作品データ
原題 Medianeras
制作年・国 2011年 アルゼンチン=スペイン=ドイツ 
上映時間 1時間35分
監督 グスタボ・タレット
出演 ピラール・ロペス・デ・アヤラ、ハビエル・ドロラス、イネス・エフロン
公開日、上映劇場 2014年2月8日~ 梅田ガーデンシネマ、4月~神戸アートビレッジセンター、順次公開~京都シネマ

 


~人と人を隔てるもの、人と人をつなぐもの~


 

 毎日、同じ時間に電車に乗って職場に行き、夕方、また同じ電車で家に帰る。私たちの日常の大半は、そんな繰り返しで埋め尽くされている。でも、その中で、ちょっとした出会いがあったら・・。本作は、30代の男女の恋を描いたロマンティックコメディ。といっても、主人公の男女は、なかなか出会わない。すれちがっても、互いの存在に気付かない。一体いつ本当に出会うのだろう。

buenosu-4.jpg 舞台はアルゼンチンの首都ブエノスアイレス。急激な経済成長を遂げ、無計画で一貫性のない都市。高層ビルと低層ビルが乱立し、伝統的なビルと現代風のビルが隣り合う。人々が暮らす部屋も、何室もある高級マンションから、「靴箱」と呼ばれる、窓の小さなワンルームまでさまざま。映画は、そんな雑然とした街の中で、ひときわ目を引く優れた建築物や、ビルの窓ガラスに映った光景など、幾つもの建築物を映していく。それは、地下鉄がふいに地上に出た際、窓の向こうに見えるビルや、都心の高速道路から眺める景色にどこか似ている。殺風景で無機質で、でも美しく見える瞬間がある。私たちは日々、街の風景とも出会っているはず。一体どんな光景が私たちの心をとらえ、記憶に残るのだろう。

buenosu-2.jpg ブエノスアイレスに住むマルティンもマリアナも、他人を寄せ付けず、疎外感を抱えて生きている。マルティンは、外出恐怖症でバスにも地下鉄にも乗れない。ウェブデザイナーの仕事をしながら、引きこもりの生活を続けていたが、やっと外出できるようになったばかり。マリアナは、閉所恐怖症でエレベータに乗れない。ショーウィンドウを装飾する仕事に就いているが、4年間つきあった恋人と別れたばかり。その歳月の重みをひきずったまま、友達もいない。新しい出会いはあってもうまくいかない。映画は、そんな二人の日常を説明するのでもなく、淡々と包み込むように描いていく。

buenosu-3.jpg マリアナを演じるのは、『シルビアのいる街で』の主演女優ピラール・ロペス・デ・アヤラ。心に空洞を抱えたまま、自分で埋めることもできず、扱いかねているような表情が魅力的で、ひきつけられる。彼女の愛読書は「ウォーリーをさがせ!」という絵本。開いた頁いっぱいにあふれるほどの人混みの中から、赤と白のストライプのシャツを着たウォーリーを探す試みは、現実とどこか重なり、心ひかれる。

 原題は「Medianeras」。ブエノスアイレスでは「境界壁」「共有壁」という意味。壁は、人を隔てるものであると同時に、人をつなぐものでもある。マリアナは隣室からのピアノの音に耳をすますこともあれば、いらだってコップを壁に投げつけることもある。マルティンとマリアナも、実はすぐ近くのビルに住んでいたとわかるシーンがおもしろい。

 都会に生きる二人が出会いそうで出会わない秋、長い冬を経て、突然春が舞い降りたかのようなラストがいい。春の陽光の中、マルティンは、ビニルケースに入れたままずっと机の上に飾ったままの鉄腕アトムの人形を、ビニルケースから外して取り出し、手に取る。大切なものはとっておくだけではだめと教えてくれる。もうすぐ春の兆しがやってくる。街へと出歩いてみようと呼びかけられた気がする。

(伊藤 久美子)

公式サイト⇒http://www.action-peli.com/medianeras/

[c]Rizoma Films 2011

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