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『リベンジ・マッチ』

 
       

revenge-550.jpg『リベンジ・マッチ』

       
作品データ
原題 GRUDGE MATCH 
制作年・国 2013年 アメリカ 
上映時間 1時間53分
監督 ピーター・シーガル
出演 シルベスター・スタローン、ロバート・デ・ニーロ、ケビン・ハート、アラン・アーキン、キム・ベイシンガー、ジョン・バーンサル、LL・クール・J
公開日、上映劇場 2014年4月4日(金)~全国ロードショー

 


★38年後、執念のリターンマッチ


 

  興奮の場内に傷だらけの男が「エイドリアーン」と叫んだのは1975年。あれから38年、闘いの姿形は変わっても、傷だらけの“ロッキー”は変わることなくタフだった。歳は取ったが最後の夢を果たした。かつてまぶしかったヒーローと同じ、団塊世代には近しい存在に見えた。

revenge-5.jpg  今回闘った相手は名優ロバート・デ・ニーロ。『ロッキー』がアカデミー賞作品賞など多くの栄光に輝いた前年(74年)、デ・ニーロも『ゴッドファーザーPartⅡ』で若き日のドン・コルレオーネを演じアカデミー賞助演男優賞を受賞した。“イタリアの種馬”ロッキーと同じイタリア移民、力でのしあがる組織のボス役はリアリティー満点だった。「腕っぷしで敵を倒してのしあがる」点が共通する、移民の国アメリカの「陰と陽」の象徴でもあった。

  いささか畑違いの二人だが、デ・ニーロもまたマーティン・スコセッシ監督『レイジング・ブル』(80年)でボクサーを演じた。撮影中に25㌔減量という伝説を残したジェイク・モレッタ役でアカデミー賞主演男優賞。彼もまた“伝説のボクサー”だった。 ロッキーVSモレッタ…ヘビー級とミドル級の違いはあっても、この二人が“再戦”するドリームマッチこそハリウッドならではの夢だろう。

revenge-2.jpg  二人の因縁物語がみっちり盛りだくさん。レーザー(スタローン)とビリー(デ・ニーロ)はともにピッツバーグ出身で1980年代以来、宿命のライバル。レーザーは生真面目で寡黙なロッキーそのまま。ビリーは派手好きな目立ちたがり屋と対照的。全盛期の二人の対決は初戦、レーザーが勝ち、リターンマッチでビリーが勝って1勝1敗。だが、注目された3度目の対戦を前にレーザーは突然引退を表明。理由は公表されなかったが、彼は恋人サリー(キム・ベイシンガー)をビリーに寝とられていたのだった…。

  20代で栄光をつかんだ男の“その後の人生”ドラマでもある。栄光などとは無縁な凡人でも紆余曲折は同じ。あのロッキーでさえ浮き沈みはあった…と共感を覚える展開。 “最後の対決”から30年、レーザーは造船所に再就職、ビリーは自動車販売とレストラン経営。そんなパッとしない二人にいちびりの二代目プロモーター、ダンテ(ケビン・ハート)が“ゲーム化”の対戦を持ちかけたことから二人がエキサイト、ケンカの模様がネットで流れて盛り上がり、ついに2万人収容のアリーナを埋め尽くす“リベンジマッチ”に発展する。

revenge-3.jpg  恋人とボクシングを奪われたレーザーにとっては起死回生の大勝負。ビリーも、サリーとの間に生まれた息子が成長、孫も出来て「夢をもう一度」と燃える…。 長い人生の第4コーナーに「もうひと勝負」を望む気持ちは誰もが持つはず。ロッキーとモレッタが、衰えを自覚しながら懸命に肉体鍛練する様子がユーモラスだ。レーザーは介護施設で暮らす老トレーナー“稲妻”(アラン・アーキン)を無理やり引っ張り出す。

revenge-4.jpg  ビリーには、大学でアメフト・コーチをする息子BJ(ジョン・バーンサル)が付く。衰えた肉体の再鍛練は微笑ましく涙ぐましい。  『ロッキー』では訓練を始めるスタローンが、起き抜けに生卵をビールの大ジョッキにいくつも割って一気飲み、街を走り抜けて美術館の階段を駆け上がる名場面が残るが、30年後は飲めずにこぼしてしまう。この落差が“リベンジマッチ”のツボだろう。

  ようやくボディと試合勘を取り戻すまでになったレーザーだが、稲妻にも隠していた致命的な秘密があった。だが、男はそれでもリングに立つことを諦めない。対戦を前に、一度は去った恋人サリーが姿を現したからだった…。サリーのキム・ベイシンガーが驚くほど美しい。スタローンもデ・ニーロも衰えを隠しきれないのに、ハリウッド・マジックには目を見張るばかりだ。となれば、男はみんな、レーザーのように死地に赴くかも知れない。

  ロッキーが王者アポロを相手に「エイドリアンのため」と苦しい闘いをしのぎきったように、レーザーもまた「ダメならタオルを投げる」という稲妻を最後までとどめる頑張りを見せた。

“両雄対決”はドローが相場だ。ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリとプロレス・アントニオ猪木の異種格闘技“世紀の一戦”は世間を騒がせたが“闘い方の違い”でドロー。猪木と無敗の極真空手“熊殺し”ウイリー・ウィリアムスの注目の闘いも、両者痛み分けに終わった。

  映画ではなおさらだ。東宝『ゴジラ対キングコング』(62年)はホームタウン・デシジョンでゴジラが勝ったが、勝新太郎と三船敏郎が激突した『座頭市と用心棒』(70年大映)は勝負なし。

  東映任侠映画の二大ヒーロー、高倉健と鶴田浩二は任侠映画のスタートとなった『人生劇場・飛車角』(63年)で佐久間良子をめぐって渡り合ったが以後、本気で対決した記憶がない。 だが、リベンジマッチは意外や白黒がはっきりつく。日本同様、アメリカでも分厚い層として社会を支え、時には邪魔になったこともある団塊世代に、アメリカ映画として決着をつけた“夢の対決”だったのかも知れない。

(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://wwws.warnerbros.co.jp/grudgematch/

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