『ランナウェイ・ブルース』
原題 | MOTEL LIFE |
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制作年・国 | 2012年 アメリカ |
上映時間 | 1時間25分 |
原作 | ウィリー・ヴラウティン 「Motel Life」 |
監督 | アラン・ポルスキー、ガブリエル・ポルスキー |
出演 | エミール・ハーシュ、スティーヴン・ドーフ、ダコタ・ファニング、クリス・クリストファーソン |
公開日、上映劇場 | 2014年3月15日(土)~シネマート新宿、シネマート心斎橋 他順次公開 |
~孤独な兄弟が紡ぐ家族の絆―映像とアニメの融合美~
「バッド・ルーテナント」のポルスキー兄弟が兄弟の物語を撮った。ウィリー・ヴラウティンの小説「Motel Life」をタイソン対ダグラス戦(1990)のボクシング映像やマイク・スミスによるアニメーションを大胆に用い、巧みに映像へと転化させた。陰鬱なムードが漂うストーリーにうまく抑揚をつけ、飽きさせることなく一気に結末まで持っていく手腕はさすが。映像とイラストレーション、物語と物語が織り成す美しい結晶品に仕上げ、初監督にして第7回ローマ国際映画祭でみごと4冠に輝いた。
幼い日、兄はスケッチブックに絵を描きながら、弟に物語を聞かせてくれと頼んだ。そこから兄と弟の虚実ないまぜになった物語が始まる。
母親の死後、支えあって生きてきた兄弟だったが、兄ジェリー・リー(スティーヴン・ドーフ)の起こしたひき逃げ事故をきっかけに二人は町を出る。傷をなめあうような日々のなか、兄は自らの犯した罪にふるえ「俺は愛を知らない」と嘆く。そんな兄を献身的に支えつつ、求められるままに優しいうそをつき続ける弟フランク(エミール・ハーシュ)。しかし、その物語は決して夢のように楽しいばかりではなく、死や暴力と愉楽が混ざり合った独特なストーリー。人は自分の物語から目をそらしたくなるときがある。そんなとき、おとぎ話は奇想天外であればあるほど、現実をいっとき忘れさせてくれる力を持つのかもしれない。背後に流れるちょっとセクシーでグロテスクなアニメーションが、みごとにその世界と調和している。
ドーフとハーシュ、二人の息の合った演技がすばらしい。それもそのはず、この作品は数年前に共演の話がありながら実現しなかった二人にとって、願ってもないチャンスとなった。特に終盤での二人の対話は胸に迫る。弟の目で観る物語と兄の目で観る物語は違った色合いを見せてくれるだろう。そして、舞台となるシエラネバダ山脈の雪に覆われた寒々とした風景、空を群青に染める暗く厚い雲が、冬の澄み切った空気のように不思議と清々しく視界を広げてくれる。
ひとつの旅の終わりは、新しい旅のはじまりでもある。ラストシーンではフランクの恋人アニー(ダコタ・ファニング)の笑顔が午後の陽射しのなかまぶしく映える。まるで雲間からのぞく太陽のように、それは新しい人生のはじまりを予感させる。
(山口 順子)
公式サイト⇒ http://runaway-blues.jp/
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