『家路』
制作年・国 | 2014年 日本 |
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上映時間 | 1時間58分 |
監督 | 久保田直 |
出演 | 松山ケンイチ、田中裕子、安藤サクラ、内野聖陽、山中崇、田中要次、光石研、石橋蓮司 |
公開日、上映劇場 | 2014年3月1日(土)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、ほか全国ロードショー! 3月8日(土)~神戸国際松竹 |
~震災後の福島に生きる人の生、その希望と願いに寄り添う~
“土”である。映画の冒頭、松山ケンイチ演じる青年・次郎が一所懸命に、しかし愛おしさを込めるように土を耕している。そして、映画のラストでは老いた母と次郎が田植えをするその手が映し出される。土への、自然への、生命への愛おしさがここにもしみじみと感じられる。本来ならば、農村地帯ではごく当たり前の風景だが、そこは震災後の福島の警戒地域だから、異常な風景だと見なされる哀しさ。問題の福島第一原子力発電所に近いために、先祖から受け継いだ農地や住み慣れた家に帰れなくなった人々がいることを、一日の一瞬でも思うことがあるだろうか。同じ日本という小さな島国にいて、私たちの日常とはなんとかけ離れていることか。
次郎は不思議な青年だ。ある事件がもとで福島を離れていたが、震災の後に戻ってきて、たった一人で、もとの家に暮らし始める。畑仕事に精を出し、大量の米を炊いて味噌汁と漬け物だけの食卓を前に美味しそうに食べる。ストイックともいえるような暮らしだが、それを心から楽しんでいるように見える。なぜ帰ってきたのかと問う友人に「誰もいなくなったら、何も無かったってことになる」と答える彼の言葉が印象的だ。次郎とは異母兄弟である兄の総一は、狭い仮設住宅で次郎の母・登美子と妻、娘と共に暮らしている。この家族の間に流れる空気には、どこか冷え冷えとしたものがあり、失ってしまって返ってはこないものへの苛立ちが感じられる。それを立て直し、人の営みについてもう一度思いを寄せたいという気持ちを体現しているのが、次郎であり、“土”なのだ。
汚染しているといわれても、愛情が注がれた土からは、芽が出る、葉が育つ。人の生は植物のたくましさを超えられるだろうか、いや、超えていきたいと思うのだ。常套語となった“再生の物語”などという安易な言葉のイメージでなく、この映画には、いま日本人が向き合っているさまざまな問題を見据え、それを克服する可能性に対する願いが確かに存在する。素晴らしい演技陣にも恵まれた、見るべき一作だ。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://www.bitters.co.jp/ieji/
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