『ドラッグ・ウォー 毒戦』
原題 | 毒戦 Drug War |
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制作年・国 | 2012年 中国、香港 |
上映時間 | 1時間46分 |
監督 | ジョニー・トー |
出演 | ルイス・クー、スン・ホンレイ、クリスタル・ホアン、ウォレス・チョン、ラム・シュー |
公開日、上映劇場 | 2014年1月25日(土)~シネマート心斎橋、3月15日(土)~京都みなみ会館、順次~元町映画館 他全国順次公開 |
~嘘か真か、アイツはどっちだ?!~
香港ノワールのエース、ジョニー・トーにとって「毒戦」は手慣れた庭。12年のラブロマンス『高海抜の恋』でも違いを見せたトー監督が、いつものフィールドで紡ぎあげた“闇の世界”に引き込まれる。
爆発事故を起こしたコカイン工場から車で逃げる男テンミン(ルイス・クー)に目が釘付け。男は死に物狂いで逃走を図った挙げ句、衝突事故を起こして病院行きに。一方、ジャン警部(スン・ホンレイ)率いる麻薬捜査チームは“ブツ”を飲み込んで密輸しようとした数人の男女を逮捕、巨大な麻薬組織の端緒をつかむ。
危険を承知の“体内”密輸は映画で何度か見たが、ブツの“排出”まで見せたのは初めて。ジョニー・トーには嘘がない。一度は病院を逃げ出したテンミンは再びつかまり「麻薬50㌘以上製造は即死刑」の中国のこと、彼は「死刑はイヤだ」と自ら協力を申し出る…。
ジャン警部とテンミンは、香港、韓国、日本にまたがるアジア麻薬組織の壊滅、香港七人衆逮捕へ向けて潜入捜査を開始する。警察の監視のもと、テンミンは“仲間”として組織の大物たちと接触していく…。
潜入捜査はいつもスリル満点だ。身分を隠した警部がテンミンに引き合わされた大物から「このコカインを吸えば仲間だ」と言われ、断ることもならず無理して吸う。悲惨な場面だが、警部がたまらずぶっ倒れるシーンはどこか笑えるあたりもトー監督の隠し味。
テンミンは本気で組織を裏切るのか、“改心”もまた嘘じゃないのか。やくざな男たちの一途な情念をフィルムに刻みつけてきたトー監督の真髄を実感する。 徹底したアクション派のジョン・ウー、ツイ・ハーク、洒落た恋物語のウォン・カーウァイら多彩な80年代香港映画人脈の合間から、ジョニー・トーが飛び出したのは05年『エレクション』、06年『エグザイル/絆』の2本。決定打は09年『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』だった。フランスからやって来た男ジョニー・アリディとはみ出し男たちの誓いが凄まじい情念に結実した。香港アクションは早くから見慣れていたつもりだが度肝を抜かれた。それほど鮮烈だった。
中国本土と合体した香港映画はどう変わるのか? 『毒戦』は懸念していた香港映画ファンにジョニー・トーが出した答えではないか。本土に蔓延するドラッグVS麻薬捜査官、そのし烈な戦いはリアリティー満点。脚本の段階から中国公安を意識し、銃撃戦ではかなりカットした、というが、ラストのど派手な銃撃戦は、もはやどちらが善か悪か、気をつけないと分からなくなるほど。その執拗さは登場人物たち同様、権力への反骨精神そのものに見える。そして、ことを引き起こした張本人テンミンの正体は? 最後まで引き付けてやまないジョニー・トーの世界には圧倒された。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://www.alcine-terran.com/drugwar/
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