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『エージェント:ライアン』

 
       

AR-550.jpg『エージェント:ライアン』

       
作品データ
原題 Jack Ryan: Shadow Recruit 
制作年・国 2013年 アメリカ 
上映時間 1時間46分
原作 トム・クランシー
監督 ケネス・ブラナー(『マイティ・ソー』)
出演 クリス・パイン(『スター・トレック』)、ケヴィン・コスナー(『マン・オブ・スティール』)、キーラ・ナイトレイ(『パイレーツ・オブ・カリビアン』)、ケネス・ブラナー
公開日、上映劇場 2014年2月14日(金)先行、15日(土)~全国ロードショー

 


~“ザ・スパイ・イン・ザ・ビギニング”~


 

AR-4.jpg  スパイ映画通に待望の有望新人の登場だ。弱冠25歳、新星クリス・パインが伝説のスパイ、ジャック・ライアンを演じる『エージェント・ライアン』は“敵地に潜入する仕事”がスリリングな痛快アクション。

  スパイはアクション・サスペンスの花形。米ソ冷戦時代から半世紀以上もの長い間、主役を務めてきた。人気を引っ張ったのはショーン・コネリーやピアース・ブロスナン、近年のダニエル・クレイグらによる英国諜報員、007ジェームズ・ボンド、アメリカではトム・クルーズの当たり役イーサン・ハント…。彼らは最初から凄腕、無敵の諜報員だった。

  ベストセラー作家トム・クランシーが生み出した人気スパイ、ジャック・ライアンも、デビュー作『レッド・オクトーバーを追え!』(90年)はアレック・ボールドウィンが、続く『パトリオット・ゲーム』(92年)、『今そこにある危機』(94年)では貫禄のハリソン・フォードが演じ“凄腕スパイ列伝”に名を連ねる。

  クランシーは昨年10月に急逝し、スパイ・ライアンも存続が危ぶまれたが、新作は「世界を救うスパイはいかにして生まれたか」を描く異色の誕生秘話になった。スーパーマンもバットマンも、Ⅹメン=ウルヴァリンも一度は原点に戻ったが、スパイにも始まりの時はある。スーパーマンになってしまった万能スパイを普通の人間として見せる工夫だろうか。

AR-3.jpg  ジャック・ライアンがボンドやイーサン・ハントと異なるのは、彼が「博士」と呼ばれるインテリのアナリスト(情報分析官)である点。ライアンは大学在学中に、CIA諜報員ハーパー(ケヴィン・コスナー)にリクルートされる。彼は大学で学び、金融システムに精通しており、ハーパーはその能力を見込んだ。もっぱら射撃や身体能力優先のボンドらと違い、時代の要請に応じたハイテク諜報員が現代スパイの条件だ。

  一人前のスパイに成長したライアンの敵はこれまでとは様相が異なる。9・11テロ後、米国は厳戒態勢を敷くが、弱点は誰にも気づかれずに侵入出来る金融システム。コンピューター・ネットワークの奥深く隠された不穏な計画に、ビジネスマンを装おって活動し始めたライアンが気付く。今のスパイは勘が鋭くないと務まらない。

  巨大な謀略の黒幕はロシアの有力実業家チェレヴィン(ケネス・ブラナー)であることを突き止め、エージェント・ライアンは初仕事にロシアに飛び、ビジネスマンとして敵と対決する…。

AR-2.jpg  素人ライアンが全世界的な危機にどう対処するのか、導入部からグイグイ引っ張る。空港に到着するや大男の運転手が登場、部屋に入るなり拳銃で狙撃されるから油断出来ない。ライアンいきなりのピンチ、インテリ・スパイの戦闘能力が試される。

  もうひとつの見どころはライアンの恋人キャシー(キーラ・ナイトレイ)。諜報員は友人、家族、恋人にも正体を知らせないことが鉄則だが、旅先ロシアにキャシーが突然現れ、さすがのライアンも大焦り。結婚を考えるライアンはキャシーに打ち明けるのか、それとも…ライアンの素の人間性が現れる場面はボンド映画にはなかったところだ。

  キャシーが現れて、スパイ映画の原型が日本映画にあったことを思い出した。66年大映作品、市川雷蔵主演の『陸軍中野学校』。全5作中の第一作、つまりビギニングでは若い陸軍少尉(雷蔵)が記憶力などを試された後、諜報員養成学校に入れられる。彼はスパイの適性検査に合格したのだった。冷静沈着な彼の弱点は恋人(小川真由美)の存在で、彼女の愛が若きスパイに悲劇をもたらす。

AR-5.jpg  だから、ボンドもハントも家族や恋人とは無縁。プレイボーイで鳴らすボンドは一度婚約したが彼女はあえなく殺されてしまった。ライアンの恋人キャシーは、スパイ映画の掟を破る存在なのだ。だが、そこが日米の違いか、今昔の差か、ライアンは彼女に自分がスパイであると打ち明けると、キャシーは進んで危険な任務を手伝う。彼女は、黒幕チェレヴィンとの会食に出るのだから、スパイ映画も変わった。

  キレのいいアクションあり、固唾を飲むカーチェイスあり、爆弾探しまでスパイアクションの要素を詰め込んで期待を裏切らない。東西冷戦はとっくに終わり、アメリカの敵は多様化しているのに、黒幕がやっぱりロシアとは、国名が変わってもスパイの敵もまた、ボンド時代の原点に戻ったのかも知れない。

 (安永 五郎)

公式サイト⇒ http://www.agentryan.jp/

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