『さよなら、アドルフ』
原題 | Lore |
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制作年・国 | 2012年 オーストラリア、ドイツ、イギリス合作 |
上映時間 | 1時間49分 |
監督 | 監督・脚本:ケイト・ショートランド、共同脚本:ロビン・ムケルジー |
出演 | サスキア・ローゼンダール、カイ・マリーナ、ネレ・トゥレープス、ウルシーナ・ラルディ、ハンス・ヨッヘン・ヴァーグナー |
公開日、上映劇場 | 2014年1月11日(土)~シネ・スイッチ銀座、1月18日(土)~梅田ガーデンシネマ、2月15日(土)~シネ・リーブル神戸、2月~京都みなみ会館 他全国順次公開 |
~戦犯の娘ローレの変化に見える“新生ドイツ”の希望~
日本と同じ第二次世界大戦の敗戦国であるドイツ。今まで取り上げられることがなかった“ヒトラーの子供”と呼ばれた親衛隊の子供たちの戦後を見つめた『さよなら、アドルフ』は、珍しい切り口で戦争と人間を描いている。戦犯として両親が逮捕され、取り残された5人の子供たちがドイツ南部から900㌔北の祖母の家へ辿り着くまでの過酷な旅を通して、終戦直後のドイツの状況と少女が健気に成長する姿を瑞々しい映像で捉えた感動作である。
【STORY】
ナチス親衛隊幹部の両親が戦犯として逮捕され、14歳の少女ローレは妹と双子の弟とまだ赤ん坊の弟の子供だけで取り残される。近所の農家に食料調達に回るが、ナチス幹部の子供には冷たく、隠れ家からも出ざるを得なくなる。そこで、900㌔離れたドイツ北部のハンブルクに住む祖母を頼って旅に出る。母親が残したわずかな金品もすぐに底をつき、赤ん坊を抱えての旅は想像を絶するものがあった。それでも、力を合せて道なき道を進む。
途中廃屋に集まった避難民のキャンプで、ユダヤ人虐殺の記事を目にする。そこには大勢の遺体を前に誇らしげにポーズをとる父親の姿があった。ナチスの残虐行為を初めて知ったローレ。それまで絶対的正義と信奉してきたナチスドイツへの信頼が大きく崩壊していく。絶望に暮れる間もなく健気に振る舞うローレの前にユダヤ人の青年トーマスが現れる。そして、何かにつけてローレたちを助け、妹弟たちは兄のように慕っていく。はじめはユダヤ人に対する嫌悪感を示していたローレだったが、何度も危険な旅を助けてくれるトーマスに次第に心を寄せるようになる。果たして、祖母の家まで辿り着けるのだろうか? ローレはどのように変化していくのだろうか?
オーストラリア人のケイト・ショートランド監督は、ドイツ系ユダヤ人である夫の親族の話から着想したという。終戦直後の混乱する状況下で、幼い子供たちだけで旅をするなどどれ程危険で恐ろしいことだったか――ただでさえ、価値観が大きく狂って動揺する状況なのに、為すべきことを冷静に見極め、妹弟たちを守ろうと奮闘するローレの姿に目が釘付けになる。思春期の繊細な心情を瑞々しい感性で演じたサスキア・ローゼンタールは、昨年の『ベルリン国際映画祭』で“シューティングスター2013”に選ばれている。
ラストシーンで見せたローレの反逆の態度こそ、大きな力に対し盲信的に服従せずに、自分の意志で生きて行こうとする決意の表れだろう。それこそが、“新生ドイツ”として戦後のヨーロッパで戦争責任を果たしながら生き抜いてきたドイツ人の姿勢だったような気がする。敗戦という激動の中で、体験したことのないショッキングなことを目撃し、また危険に身をさらしながら歩き続けたローレたち。その勇気に改めて心が揺さぶられる。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://www.sayonara-adolf.com/index.html
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