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『楊家将~烈士七兄弟の伝説~』

 
       

youkashou-550.jpg『楊家将~烈士七兄弟の伝説~』

       
作品データ
原題 『忠烈楊家將』・英語題:『SAVING GENERAL YANG』
制作年・国 2013年 香港・中国 
上映時間 1時間42分
監督 製作・監督・脚本:ロニー・ユー  アクション監督:トン・ワイ  音楽: 川井憲次
出演 ウーズン 『処刑剣 14BLADES』、ヴィック・チョウ 『流星花園~花より男子~』、イーキン・チェン『風雲 ストームライダーズ』、アダム・チェン、ユー・ボー、リー・チェン、レイモンド・ラム、フー・シンボー
公開日、上映劇場 2014年1月4日(土) シネマート心斎橋、以降~京都みなみ会館、元町映画館にて順次公開

 

 


~血沸き肉踊る歴史劇は、京劇の原点~


 

  中国五千年の歴史には壮大なロマンが詰まっている。そう実感させるのが歴史劇映画『楊家将~』だ。宋の時代、敵国・遼を相手に死闘を繰り広げた将軍・楊家業一族の英雄伝説は、あの『三国志』をしのぐ人気を誇り、京劇の定番にもなっているという。中国はホントに広くて奥深い。

youkashou-2.jpg  名高い楊将軍と七人の息子たちの波瀾万丈の物語。『忠・孝・仁・義』という昨今あまりお目にかからない言葉を、命をかけて守ろうとする息子たちの姿に思わず熱くなる、アクション・ホームドラマでもある。  唐の滅亡後を治めた宋王朝(960~1279年)時代、皇帝の忠臣・無敵を誇った楊家業(アダム・チェン)は北方騎馬軍団・遼を破って厚い信頼を得ていた。息子たちが他家ともめ事を起こしている最中、遼の大軍が侵攻してくるという知らせが届く。遼軍を率いるのは、かつて家業が破った将軍の息子・邪律原(やりつげん)。宋の指揮を命じられたのは息子たちともめた相手の潘仁美。家業は先鋒隊を務めることになる。

  楊一族は敵からも味方からも敵視されていることに不安を覚え、案じた通り潘仁美が先鋒隊を置いて撤退。家業は弓矢で重傷を負う。七人の息子たちは孤立無援で窮地に陥った父を救出するため死地へと赴く…。  ハリウッド顔負けのスケール大きなアクションに目を見張る。ロニー・ユー監督はアメリカで学び香港で監督デビュー、ハリウッド的な作風が人気を集め、ホラー映画でハリウッド逆上陸も果たした。ジェット・リー主演の『SPIRIT』でカンフー・アクションも手がけた。中国人監督による中国歴史映画が本モノの味わいなのは当然か。

  外敵と戦う一方、複雑な内部の敵とも戦わなければならない。韓流ドラマだけじゃない、王朝内部の勢力争いもこちらが本家だろう。

  父親のために身を捨てて戦いに挑む息子たち、圧倒的に不利な状況で獅子奮迅の活躍を見せる姿…瀕死の父親を背負って故郷に帰ろうとする兄弟の奮闘が涙ぐましい。

youkashou-3.jpg  七男は憎っくき潘仁美に援軍を頼みに行って討ち死に。長男は弟たちを逃がすため単身、敵を食い止める戦いに散る。「父の仇」と七兄弟を目の敵にする邪律原に一人、また一人と倒されていく。途中、父親が絶命し、それでもなお「母のために」と死体を背負って帰ろうとする兄弟の姿には“親孝行”だけじゃない何かを感じさせる。

  アクション映画、とりわけ歴史劇で親子や兄弟が主役になることは少ない。アメリカでも中国、日本でも徒党を組むのは気の合う仲間。有名な黒澤明監督『七人の侍』もともに戦うのは腹をすかした浪人仲間だし、ハリウッド・リメイク『荒野の七人』も同じだった。

  映画で描かれる兄弟と言えば日本ではもっぱら任侠映画の世界。主役は“義兄弟”だった。父親と息子、兄弟の映画で頭に浮かぶのはハリウッド西部劇で、ヘンリー・ハサウェイ監督『エルダー兄弟』(65年)。母の葬儀で故郷に帰った4人兄弟が、父親が殺され、牧場が乗っ取られていたことを知って復讐に立ち上がる、ジョン・ウェイン、ディーン・マーチンの共演作品が『楊家将』に近い。名匠ジョン・フォード監督の『四人の復讐』(38年)も兄弟による復讐譚だった。日本では古く「曽我兄弟」の仇討ち物語が代表格。

  中国は本来、儒教思想が根強く、孔子の時代から親孝行が重んじられる国。今改めて親孝行の民間伝承『楊家将』が映画化されるのは、荒廃しつつある(ように見える)中国社会への警鐘ではないか。日本も同様だろうが。

(安永 五郎)

 公式サイト⇒ http://www.u-picc.com/yokasho/

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