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『少女は自転車にのって』

 
       

shoujojitennsha-550.jpg『少女は自転車にのって』

       
作品データ
原題 Wadjda
制作年・国 2012年 サウジアラビア・ドイツ合作 
上映時間 1時間37分
監督 監督・脚本:ハイファ・アル=マンスール
出演 ワアド・ムハンマドワジダ 、リーム・アブドゥラ
公開日、上映劇場 2014年1月4日(土)~シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、1月11日(土)~京都シネマ

 


~重い現実の中で、自分らしく生きようとする少女の明るさと勇気が輝く~


 

 空き地の塀の向こうをトラックに載せられた緑色の自転車が通り過ぎていく。それを目に留めた瞬間、少女ワジダの心はわしづかみにされる。あの自転車に乗りたい、思いはそれだけ。手作りのミサンガを学校の友達に売ったり、上級生が恋人と密会する手助けをして、お小遣いを貯める。母にも自転車がほしいとねだるが、サウジアラビアでは、女性の自由は厳しく制約されており、女の子が自転車に乗るなんて絶対許さないと一蹴される。それでもワジダは諦めない。コーランの暗唱コンテストで優勝すれば賞金で自転車が買えると、宗教クラブに入り苦手なコーランの勉強に熱中する。

shoujojitennsha-2.jpg 映画は、ワジダの視点で身の回りの出来事を生き生きと描いていく。厳しい規律で子ども達を縛りつける女校長、夫の嫉妬を恐れ、女性だけの職場で働くために毎日3時間もかけて通勤し家計を支える母、女性はひとりで外出することも許されず、親兄弟や夫以外の男性がいる場所では、黒い布で全身を覆い、スカーフで髪を隠すという慣習。この映画を観て、誰もがサウジアラビアの女性の置かれた重い現実に驚くにちがいない。テレビゲームがワジダの家にも置かれ、近代化が進む中で、女性差別が根強く残り、今なお多くの女性を苦しめていることを知る。

 そんな厳しい現実の中で、10歳のワジダは、規則が嫌いで、学校で問題児扱いされても、自分を貫き、自由にたくましく生きようとする。映画の冒頭、学校の友達は皆黒い靴をはいている中で、ワジダだけがスニーカーをはいているシーンに象徴されるワジダの意思の強さ。スカーフで顔を隠すよう先生にいわれても、少し髪を隠すだけ。近所の男の子アブドゥラと仲良くなり、自転車を手に入れてアブドゥラと競争したいという願いを実現しようと、いろんな壁にぶつかって落ち込んだりしながらも、明るく頑張りとおす姿に心打たれる。

shoujojitennsha-3.jpg 一夫多妻制ゆえに、愛する夫が第二夫人を迎えることを止められないワジダの母の悲しさ。おてんば娘に手を焼きながらも、娘への深い愛情と、その将来に希望を託す姿が涙を誘う。何かとワジダを助け、優しく守ろうとする少年アブドゥラのつぶらな瞳が可愛らしい。

 道を歩くワジダをとらえたロングショットの映像が積み重ねられ、街の空気を伝える。その街路をワジダが自転車に乗って颯爽と走っていく姿は、まるでいろんな人達の希望を乗せているようで、ワジダの清清しい笑顔が胸に迫り、その勇気と輝きに心からエールを送りたい。

(伊藤 久美子)

公式サイト⇒http://shoujo-jitensha.com/

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