『ラッシュ/プライドと友情』
原題 | RUSH |
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制作年・国 | 2013年 アメリカ |
上映時間 | 2時間03分 |
監督 | ロン・ハワード |
出演 | ダニエル・ブリュール、クリス・ヘムズワース |
公開日、上映劇場 | 2014年2月7日(金)~ TOHOシネマズ( 日劇、梅田、なんば、二条、西宮OS)、大阪ステーションシティシネマ、OSシネマズミント神戸 他全国ロードショー |
★天才VSコンピューター、究極の対決
死と背中合わせの職業はこんなにも劇的でスリリングだった…ロン・ハワード監督の『RUSHラッシュ~』はF1レースの興奮とスリルを思う存分堪能出来る。自動車レースの最高峰F1(フォーミュラワン)は最高に劇的な題材に違いない。実在の人気レーサー、ジェームズ・ハントとニキ・ラウダ、2人のライバル関係に焦点を絞った映画はロン・ハワード監督の思いがこもった力作になった。 ハントとラウダは70年代、F1レーサーとしてしのぎを削った。自由奔放な天才ハントと“走るコンピューター”ラウダ。対照的な二人の火の出るようなライバル心、二人にしか分からない友情をドラマチックに描きあげた。
2人はF3時代から宿命のライバルだった。オーストリアの資産家の息子ラウダ(ダニエル・ブリュール)は父親から猛反対され、勘当されながら自分の命を担保に銀行融資を受けF1チームに加入。F3の人気レーサー、英国出身のハント(クリス・ヘムズワース)は結婚しても女遊びが収まらず離婚の危機に。ラウダがイタリアの名門フェラーリに入ると、ハントも対抗するように英国の強豪マクラーレンのドライバーに。宿命のライバルが定位置に着いたのだった。
1976年、ラウダは9戦で5勝と絶好調。2年連続ワールドチャンピオンに向けてばく進。一方ハントは酒浸り、スペインGPで1位ゴールするが、厳格なラウダが「ハントの車幅が広い」と抗議して取り消し。だが、新婚ラウダも「幸せは僕を弱くする」と不安に取りつかれる。
8月1日、墓場と呼ばれる危険なサーキット、ドイツ・ニュルブルリンクは悪天候。安全重視のラウダは中止を訴えるが、追うハントたちが反対。レース序盤にラウダがクラッシュ、炎上して生死の境をさ迷う。 ことあるごとに対立してきた二人だが、ラウダの予感通りに事故が起き、ハントは「俺のせいだ」自分を責める。一命を取り止めたラウダだが、レーサー復帰は絶望的、誰の目にもそう見えた…。
F1レースに限らず、野球、サッカー、バスケットホールなど、スポーツ映画は「本物の感動には及ばない」ものだと思う。だが『RUSHラッシュ~』はまるで脚本家が創作したかのように劇的に展開を見せる。事実はフィクションよりもドラマチックだった。こんなことが実際にあったなんて…。
手術室のテレビにイギリスGPで勝ったハントが映る。その横で過酷な手術を受けるラウダ。明暗くっきりの残酷さ。これが年間、2人が死亡する(当時)というF1レースの現実…。
悪夢からわずか42日、イタリアGPの会場、ラウダが姿を現し、復帰を宣言する。ハントは「俺のせいだ」と謝罪するが、ラウダは「テレビで君を見て闘志が湧いた」。ラウダを生き返らせたのはライバルの存在にほかならなかった。
「事実」という脚本家のドラマはさらに劇的にクライマックスへとなだれ込む。決着の場は日本、どしゃ降りの富士スピードウェイ、その差、わずか3ポイント、8万人が見守る中、二人が死を賭して勝負のアクセルを踏む…。
劇画だってこんな展開は「漫画みたい」と言われるだろう。「F1の歴史」に残る衝撃の出来事には息を飲むしかない。レース場面はど迫力映像を多様なカメラでとらえ、戦う男たちの奥深い友情物語を織り込んで感動を呼ぶ。やけどで顔に深い傷を負ったラウダに「奥さんはどう思うか」と意地悪な質問をした記者を、ハントが会見後にボコボコにする、とはなんという友情か?
★スピードに生きる男の魅力は?
学生時代、画面を走る車の迫力に圧倒されたのは1966年、ジョン・フランケンハイマー監督『グラン・プリ』だった。シネラマ大画面を飛ぶように走る車、場内に響き渡るエグゾーストノート(排気音)の轟音。主演はジェームズ・ガーナーとイヴ・モンタン。日本から三船敏郎が日本車のオーナー役で出ていたが、何よりも印象に残ったのはカーレースの激闘中、一瞬音が消え、羽のように車が疾走する夢幻のようなシーン。マルチ分割などテクニックを駆使してレースを堪能させた。
巨匠ハワード・ホークスも『レッドライン7000』(65年)でレースに賭ける男たちとそんな危険な男に惚れ込む女を描いた。『RUSHラッシュ~』のハントのように、死の危険と隣り合わせの男はモテる、という真理は当初から事実だった。
あの大スター、ポール・ニューマンは『レーサー』(69年)で、スティーヴ・マックィーンは『栄光のル・マン』(71年)で、ともにレーサー役で主演、自ら車に乗って多くのファンを惹き付けた。
地面すれすれで時速300キロのスピードで車を走らせる…誰にでも出来る訳ではない危険な職業を誰が選ぶのか? 忘れられない映画はスタンリー・クレーマー監督『渚にて』。核戦争で世界の滅亡秒読みの地球、生き残ったオーストラリアの人々は自動車レースにうち興じる。人類は残された最後の時間にレースの興奮を選んだのだった。
今この一瞬を生きる、その潔さが「生きること」の意味を実感させるのだろうか。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://rush.gaga.ne.jp/
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