『かぐや姫の物語』
制作年・国 | 2013年 日本 |
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上映時間 | 2時間17分 |
原作 | 原作:「竹取物語」 製作:氏家齊一郎・西村義明 |
監督 | 原案・脚本・監督:高畑 勲 脚本:坂口理子 人物造形・作画設計:田辺 修 美術:男鹿和雄 音楽:久石 譲(サントラ/徳間ジャパンコミュニケーションズ) |
出演 | 朝倉あき 高良健吾 地井武男 宮本信子 高畑淳子 田畑智子 立川志の輔/上川隆也 伊集院光 宇崎竜童 中村七之助 橋爪 功 朝丘雪路(友情出演) 仲代達矢 |
公開日、上映劇場 | 2013年11月23日(土)~全国東宝系にてロードショー |
★かぐや姫の紡ぎ出す箏の音色が心に響く★
監督のライフワークともいうべき渾身の力を振り絞った大作である。9世紀末ころ成立したという「竹取物語」を,新たな視点から穏やかな色彩と描線のアニメとして,現代に甦らせた。いつの間にか遠くへ行ってしまった自然界に,かつて人間もその一部として存在した。そのときの記憶が呼び覚まされるようだ。喜怒哀楽といった自然の発露が虚飾によって覆い隠された世界で,箏の音色がかぐや姫の心を解き放つような輝きを放っている。
野山で育った少女は,成長して都へ連れて行かれ,かぐや姫と命名されて郷愁を募らせる。月の都の人であるかぐや姫は,地上の人間と同じ心情を学び体験していく。かぐや姫と人間の関係は,左右対称の模様の左と右のようなものだ。鏡の前に立つ人間が鏡の中に映るかぐや姫を見ている感覚が生まれる。かぐや姫も,永久にこの地には留まれない運命であることを感じていた。欠けても満ちる月の世界は,人間にとっては死後の世界である。
原作にない捨丸との関係は,かぐや姫の地上界への愛着を鮮明に映し出すと共に,融合できない別の世界に生きる者同士の悲しみを増幅させる。かぐや姫と捨丸が宙を舞うシーンは,かぐや姫の現実であり,同時に捨丸の見た夢である。2人は住む世界が違うという翁の言葉にいみじくも象徴されるように,捨丸とキジ鍋を食べられなかったかぐや姫が哀しい。清らかな天上界に欠けているのは彩り豊かな心であり,これが人間らしさの所以だ。
かぐや姫は,人間界に憧れたためにこの世に降ろされ,人間らしさを体得するが,天の羽衣を着せられると,人間の心を思い出せなくなる。かぐや姫の月への昇天は,人間の黄泉への旅立ちである。彼女は,月に近付いたとき,心の奥に保持された地上の記憶に動かされるように,ゆっくりと地球を振り返る。そのとき目に映るのは,多様な生命を育んでくれる世界だ。この瞬間,地球上に人間として生まれて良かったと実感することができる。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://www.kaguyahime-monogatari.jp
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