『キャリー』
原題 | CARRIE |
---|---|
制作年・国 | 2013年 アメリカ PG-12 |
上映時間 | 1時間40分 |
原作 | スティーブン・キング |
監督 | キンバリー・ピアース(『ボーイズ・ドント・クライ』) |
出演 | クロエ・グレース・モリッツ、ジュリアン・ムーア、ジュディ・グリア、ポーシャ・ダブルディ、アレックス・ラッセル |
公開日、上映劇場 | 2013年11月8日(金)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ ほか全国ロードショー |
★“被抑圧少女”が極限で引き起こす惨劇
学校でいじめられている内気な少女(クロエ・グレース・モレッツ)が、夢に見たプロム(卒業ダンスパーティー)で歓喜の絶頂を迎えた時、あろうことか頭から豚の血をドバっと浴びせられる。どん底にたたき落とされ少女は“復讐の鬼”と化し、会場に惨劇を引き起こす…。
37年の時を経てリメイクされた21世紀『キャリー』は、スマホやネットの普及でよりエゲつなくなったいじめの様相を見せつける。だが、追い詰められた少女の“極限状態がもたらす惨劇”という骨子には変わりがなかった。
狂信的に神を信じる母親(ジュリアン・ムーア)に厳格に育てられた娘キャリー(クロエ)。ギリギリの葛藤が、娘の心に歪みをもたらしていく。キャリーの“超能力”は、初潮も教えなかった母親の狂信のなせるわざだった…。
オカルト・ホラーは1970年代にピークを迎えた。エポックとなったのはセンセーショナルな話題をまいた『エクソシスト』(73年)。ウィリアム・フリードキン監督はまやかしものだった怪奇映画に「神と悪魔の対決」という確かな骨組みを与え、大人をも怖がらせて大ヒットし、オカルトブームを招いた。
次いで“記憶に残る”大ヒットになったのがブライアン・デ・パルマ監督の『キャリー』(76年)。スティーヴン・キングを一躍売れっ子にした映画は、後に名女優になるシシー・スペイセクが鮮烈だった。新『キャリー』は『キック・アス』でアイドル人気のクロエ・グレース~を恐怖のヒロインに仕立てた配役がポイント。可愛い女の子が、追い詰められることによって物凄い力を発揮するところに怖さがある。
悪魔に魅入られた少女(リンダ・ブレア)の『エクソシスト』も、超能力少女の『キャリー』もヒロインはいたいけな少女、その無垢な存在が、前者では悪魔に取りつかれて凄まじい姿に変貌し、後者ではとんでもない惨劇をもたらす。少女の変わり様が実は現代に巣くった病根ではないか。
オカルトやホラーではないが、フォルカー・シュレンドルフ監督の奇作『ブリキの太鼓』(79年)にキャリーの原型を見ることが出来る(原作はギュンター・グラス)。主人公の少年オスカルは3歳で成長を止め、大人たちの理不尽には奇声を発して抗議する。高周波の声は耳をつんざき、窓ガラスも割る。キャリーの超能力にそっくりだ。時代は1927年から45年のポーランド。ヨーロッパ全土がナチス・ドイツの勢力に覆われた異常な時代だった。オスカル少年の叫びは欧州全体の悲鳴に聞こえた。
『エクソシスト』がイラク・バグダッドから出土した“悪魔(バズス)”と神父との対決の様相を呈した対イスラム戦争の“先取り”だったと考えれば、狂信的な母親によって歪められたキャリーもまた、アメリカの現状への痛切な悲鳴なのかも知れない。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://www.carrie-movie.jp/