『イップ・マン 最終章』
原題 | 葉問終極一戦 |
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制作年・国 | 2013年 香港 |
上映時間 | 1時間40分 |
監督 | ハーマン・ヤウ |
出演 | アンソニー・ウォン、ジリアン・チョン、ジョーダン・チャン、エリック・ツァン、イップ・チョン、アニタ・ユン |
公開日、上映劇場 | 2013年11月16日(土)~22(金)シネ・リーブル梅田、近日~京都みなみ会館 にて公開 |
★円熟イップ・マンに感じる歴史の深み
気合いの入ったカンフーアクションに度肝を抜かれたのは1968年、ブルース・リーの『燃えよドラゴン』だった。まさしく鳥人のように世界に飛び出し、去っていった、悲しげなリーの表情は今も忘れられない。 以来、数多くのカンフースターが登場して人気を集めたが、彼の存在は今も広く語り継がれる。その“伝説の男”に武道を教えたのがイップ・マン(葉問)。ドニー・イェンが演じ、リーを思わせる切れ味鋭いカンフー・アクションでファンをとりこにした。
『イップ・マン 最終章』ではアンソニー・ウォンがイップ・マンの晩年を演じる風変わりカンフー映画。そこに、リーに通じる武道の心が見えた。強いだけじゃなく、戦うことを極力避ける“大人(たいじん)”の風格。哲学的な風貌が奥深さを感じさせる。宮本武蔵や姿三四郎よりも苦労を重ねた、円熟の境地に達した武道家と言えようか。
強く負けない男は常に映画の主役を務めてきた。だが、絶頂期だけでなく晩年が描かれるのは極めて珍しい。4本目になる映画イップ・マンは50~60年代の香港が舞台。実際に起こった現実を背景に“一代宗師・葉問”の葛藤と悪名高い九龍(クーロン)城での最後の戦いを描く。シリーズではなくとも“イップ・マン完結編”と言える。
生活に困窮したイップ・マン(ウォン)は広東省佛山市に妻子を残して香港に渡り、そこで詠春拳を教え始める。弟子になったのは労働組合委員長、寡黙な警察官、トラム(路面電車)の運転手、点心売りの女…多彩な弟子たちの周りで起こる事件にやむを得ず巻き込まれ、師匠も関わっていく、カンフー映画による香港近代史でもある。
労働争議や警察汚職などの深刻な問題にイップ・マンがあっさりカンフーで解決するわけではない。技を見せるのは弟子たちの前や難癖を付けられた時だけ。腕だけを使う練達の早業はやっぱりイップ・マンだった。
香港映画ならではの楽しみもふんだん。故郷から呼び寄せた妻ウィンセンは『つきせぬ想い』『君さえいれば/金枝玉葉』の人気女優アニタ・ユンだし、イップ・マンと一戦交えるライバル白鶴宗師チョンは『インファナル・アフェア』でもウォンと敵対した因縁のエリック・ツァン。2人が弟子たちが覗き見する中、演じる死闘は香港通にはこたえられない見どころだろう。
弟子たちに慕われながらも「看板を出せば商売になるから」と道場に看板を掲げない、逆に弟子が目の前に道場を開いた時は、自ら字を書いてやる、など師匠イップ・マンの一言一句に味わいがある。カンフー映画というよりも武術による求道(ぐどう)映画と言うのがふさわしい。そこに香港、中国伝統の武術に秘められた精神的な深みを感じさせもする。それは世界第2位に登りつめた今の経済大国・中国がなくした謙虚さ、奥深さではないか。
鍛えに鍛えたイップ・マンも病に倒れるのだが、弟子の一人が米国ハリウッドに渡り、国際スターになって帰って来る。ブルース・リーに始まり、こんなにも盛大に広がったカンフー映画の出発点。そこで若き国際スターが師匠に「僕はまだ弟子でしょうか」と聞くと師匠は「私はまだ師匠か」と問い返す。イップ・マンの教え、精神は国際スターにも受け継がれていることを見せたシーンではなかったか。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://www.ipman-final.com/
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