～ファンタスティックに人の心を推理する～

　邦題の「名探偵」より名，迷，明，命などを当てられる「メイ探偵」がいい。元警察官ジョンストンは，報奨金目当てとはいえ，抜群の推理力で未解決事件を解明する。1992年（20年前）の死体安置所での殺人事件では，現場の客観的な状況からそこにいた人々の行動を推測し，犯人を突き止めていく。現役警察官ホーは，1997年に失踪した親友シウマンの捜索をジョンストンに依頼する。だが，決して本格的な推理ものを期待してはいけない。

　男女が出会い，初めは反発しながら行動を共にするうち，困難を乗り越えるごとに距離が縮まる。そんな王道を行く展開だが，監督の熟練した語り口に乗せられ，主演２人がチャーミングに疾走し，観る者も固唾を呑んで追い続ける。ジョンストンは，心の目で物事を見る力が卓越しているが，ガチで当事者の役に入り込んで犯行時の行動を再現しようとするので，ホーは心身ともに疲弊する。それでも必死に付いていく姿がいじらしくもある。

　ジョンストンは，４年前，ある女性に一目惚れするが，誘う前に網膜剥離で視力を失った。両想いだと思い込んでいたが，勘違いだったと分かる。ホーは，シウマンの失踪が自分のせいだと思い込んでいたが，勘違いだった。想像力を駆使した推理もまた，時には間違った道に迷い込む。1995～1999年と2002年～2006年に毎年１人ずつ合計10人の女性とシウマンが失踪していた。この事件の迷推理と名推理の先で，驚くべき事実が明らかになる。

　シウマンは，執着が過ぎて自分を見失っていた。祖母や母親から受け継いだ運命が悲しい。一方，ホーは，ジョンストンに惹かれる運命だった。彼の憧れの女性に夫がいると知って喜び，彼に危険が迫っていると推理すればハート指数が上昇する。執着する余り身を滅ぼす人がいる一方，愛情に包まれて幸せに過ごす人もいる。エンディングで流れるテーマ曲「LOVE IS BLIND」が主演２人のデュエットで，本編とマッチしていて聞き入ってしまう。

（河田 充規）

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