『危険なプロット』
原題 | Dans la maison |
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制作年・国 | 2013年 フランス |
上映時間 | 1時間45分 R15+ |
原作 | フアン・マヨルガ 「The Boy In the Last Row」 |
監督 | フランソワ・オゾン |
出演 | ファブリス・ルッキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、エマニュエル・セニエ、エルンスト・ウンハウワー、ドゥニ・メノーシェ |
公開日、上映劇場 | 2013年10月19日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、テアトル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー |
~身も心も虜にしてしまう創造の魔力とは?~
今年のフランス映画祭のオープニングを飾ったのは、フランソワ・オゾン監督の新作『危険なプロット』(映画祭でのタイトルは「In The House」)だった。5年ぶりに来日したオゾン監督は、「文学のクリエイションを語ったスペインの戯曲を、自分の映画のクリエイションを語るのに遊び心をもって共有できるのでは」と思い製作したそうだ。作品を発表する度に全く違うアレンジで映画ファンを魅了してきたオゾン監督。国語教師と謎めいた男子生徒との文学を通したスリリングな関係性に、主人公の教師同様、麻薬のように依存してしまいそうになる心理ミステリーだ。
高校の国語教師をしているジェルマン(ファブリス・ルッキーニ)は、ギャラリーを任されている妻ジャンヌ(クリスティン・スコット・トーマス)と二人暮らし。生徒たちに書かせた作文を読みながらその稚拙さに嘆くジェルマン。そんな中、他の生徒とは全く違う文章に目が釘付けになる。それは、友人の家に入り込み、家の中や両親の描写をしているものだが、どこか尊大で批判的。しかも、これから核心に迫ろうというところで、「続く。」で終わっている。その勿体ぶった文章に妻は批判的だったが、ジェルマンは生徒の文才に気付いて、個人指導まで申し出る。
こうして、いつも教室の一番後に座って全体の動向を観察している控え目なクロード(エルンスト・ウンハウワー)とジェルマンとの文学をめぐる格闘が始まった。公園から見えるちょっとレトロだが温もりのある家、商社勤務の父親は息子ともバスケットをしてよく遊んでくれる、専業主婦でインテリアに興味がある美しい母親、特にこの母親(エマニュエル・セニエ)への関心は募るばかり。成績がイマイチな友人ラファを利用し勉強の手伝いという名目で家の中に入り込み、この家族をつぶさに描写していく。
他人の家を覗き見するような文章を批判しながらも、クロードが創作するスリリングな文章に惹きつけられていくジェルマン。はじめは教える立場だったが、いつの間にかクロードが創る世界にハマってしまい、彼の文章読みたさに教師としてあるまじき行動に出てしまう。
舞台で鍛えられたファブリス・ルッキーニとイギリス出身でフランス映画出演も多いクリスティン・スコット・トーマスの丁々発止の夫婦の会話が、幻惑的な小説の中のシーンが多い中、目が覚めるような小気味よさでリズムを刻む。また、本作でリュミエール最優秀新人俳優賞を受賞したエルンスト・ウンハウワーは、一見柔和で内に秘めたエキセントリックな雰囲気で、よりミステリアスな世界観を引き立てる。さらに、母性を越えた大人の女性の色香を感じさせる友人の母親に対しても、その気持ちを無理やり自分の方へ向かせるという強引さを見せて、本作のメインの顔として強い印象を残している。
ラストの方で、この少年がなぜ他人の家に関心を持ったかを納得させるシーンがチラッと挿入される。一方、自らの審美眼で少年の才能を見抜いた教師の意外な結末に、深い想いが湧きあがってくる。二人がベンチに座ってアパートを眺めるラストシーンでは、創作の世界でしか心を共有できない者たちの、喜びとも哀しみとも知れない複雑な想いが伝わってくる。それは紛れもなく、映画という仮想世界にしか生きられない、我々自身を示唆しているかのようだ。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://www.dangerousplot.com/
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