『もうひとりの息子』
原題 | Le fils de l'Autre |
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制作年・国 | 2012年 フランス |
上映時間 | 1時間45分 |
監督 | 監督・脚本:ロレーヌ・レヴィ |
出演 | エマニュエル・ドゥヴォス,パスカル・エルベ,ジュール・シトリュク,アリーン・ウマリ,ハリファ・ナトゥール,マハディ・ザハビ、マフムード・シャラビ |
公開日、上映劇場 | 2013年10月19日(土)~シネスイッチ銀座、11月2日(土)~梅田ガーデンシネマ、京都シネマ、11月23日(土)~神戸アートビレッジセンター 他全国順次公開 |
~繊細に描かれる2つの家族の相克と融和~
ヨセフとヤシンは,約18年前の1991年1月23日,湾岸戦争の初めハイファの病院で生まれ,避難した際に取り違えられた。ヨセフはテルアビブでユダヤ人のシルバーグ夫妻の子として,ヤシンはヨルダン川西岸地区でアラブ人のアル・ベザズ夫妻の子として,それぞれ育てられた。2人ともそれまで信じてきた自らの出自を不意に覆され,生きる基盤を失って途方に暮れる。両親もまた,動揺を隠せず,やり場のない憤りを抱え,悲嘆に暮れる。
取り違えを告げられたときの両親たちの反応が象徴的だ。父親は2人とも耐えられずに退室するが,母親2人は何とか受け止めようとする。ヨセフとヤシンに真実を伝えるのも母親たちだ。ヤシンの父サイードは,イスラエルに土地を占領された憎しみを抱え,イスラエル国防省の大佐でヨセフの父アロンと口論になる。ビラルも,仲の良かった弟ヤシンに「お前は弟じゃない」と言い放つ。ヨセフとヤシンの妹たちの屈託なさが眩しいほどだ。
ヨセフの母オリッドはフランス生まれの医師で,ヤシンはパリの伯母宅から医学部に通うことになっている。ヨセフがミュージシャンを夢見るのはサイードの血だと,ヤシンの母ライラが話す。写真の中の7歳のヨセフはヤシンの亡くなった弟フィラズに似ているという。2組の家族に共通点があるのが何だか悲しくもある。彼らの生活する社会が隔絶されているからだ。しかし,2つの社会の間にそびえる壁が永遠に続くわけでは決してない。
そのことを強く感じさせる作品である。ヨセフのさまよう魂,晴れない心が”my dreams”の曲に乗せて描かれる。ヤシンは,落ち着かないビラルに対し,「どう生きるかは僕が決める」と冷静に告げる。アロンがアラビア語でThanks,ビラルがベブライ語でYou’re welcomeと言葉を交わす。サイードがヨセフの写真を家族の写真に加える。ヨセフとヤシンはそれぞれ相手の家族の一員となった。3人の兄弟が結束し,ヨセフの心からは迷いや揺らぎが消える。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://www.moviola.jp/son/
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