『わたしはロランス』
2012年カンヌ映画祭 ある視点部門正式出品 最優秀女優賞受賞(スザンヌ・クレマン)
2012年 トロント国際映画祭 最優秀カナダ映画賞受賞
原題 | Laurence Anyways |
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制作年・国 | 2012 年 カナダ=フランス |
上映時間 | 2時間48分 |
監督 | グザヴィエ・ドラン |
出演 | メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ |
公開日、上映劇場 | 2013年10月5日(土)~梅田ガーデンシネマ、10月19日(土)~京都シネマ、順次~元町映画館にて公開 |
~それでも、自分に正直に生きる覚悟はある!~
周囲との軋轢を生みながらも、自分に正直に生きるロランス・アリア(メルヴィル・プポー)、45歳。彼が自分らしく生きたいと女装を始めた1989年から10年に及ぶ間、恋人を失い、職場を追われ、両親にそっぽを向かれ、偏見の目にさらされ、大切なものを失うことが多かったが、真実に気付くことも多かった。ロランス自身と周囲の人々の変化とその場の空気感を瑞々しい感覚で捉えた、23歳のグザヴィエ・ドラン監督の才能に驚かされる逸品だ。
いぶかしがるような目でカメラの方を見る人々。その表情から、視線の先にある人物が普通とは違うことを感じさせるファーストシーン。「普通に生きる人の権利や価値を問いたい。同じ言葉を話す人を求めている。」とロランスがインタビューに応えるシーンへと続く。
1989年、ロランスは恋人のフレッド(スザンヌ・クレマン)と一緒に暮らしていた。すべてにおいて波長の合うフレッドという女性を心から愛していた。寝ている彼女を起こそうと洗濯したばかりの衣服を上から降り掛けたり、「楽しみが半減するリスト」を考えたり 、それはそれは刺激的な会話をする二人の関係は永遠に続くかと思われた。だが、ロランスのカミングアウトにより一変。と言ってもロランスはゲイではない。女性として生きたいと願うだけで、周りにもそれを認めて欲しいのだ。
だが、愛し合っていても、周囲の偏見や奇異な目で見られることのストレスは、フレッドを精神的に追い込んでいった。レストランで、ロランスをからかうウェイトレスにフレッドがキレるシーンがある。「彼氏にかつらを買ってあげたことがある?彼が出掛ける度に、どこかで殴られているのではないかと心配したことはある?」と。それはロランスへぶつけたい気持ちでもあった。
国語教師の職は解雇され、両親にも疎まれ、そして、フレッドは穏やかに暮らしたいとロランスの元を去る。他の男性と結婚し子供をもうけ平凡な暮らしを手に入れたはずのフレッドだったが、初めて発行されたロランスの詩集がフレッドの元に届けられ、それを読んだフレッドは愕然とする――ロランスはずっとフレッドを愛していたのだ。彼女への愛が綴られた詩集を手に、フレッドはロランスへ手紙を書く。「ロランス、あなたは全ての境界を越えた。残るはドアを開けるだけ」……。
ロランスのカミングアウトによって大きく変化していく母親を演じたナタリー・バイ。出演シーンは少なかったものの、ロランスが訪ねて来る度に自分の人生を取り戻したように活き活きと美しくなっていく。その変化がロランスのカミングアウトの意義の大きさを象徴しているようで面白い。
時折見せるキャラクターの心象風景を具象化したシーンの奇抜なこと!真実から逃げていた自分に気付くフレッドに大量の水が天井から降ってきたり、晴天の冬空の下、歓びにあふれて歩く二人に上からカラフルな洗濯物が降ってきたり、感情の大きな転換期をスタイリッシュな映像で表現する辺りは、グザヴィエ・ドラン監督独特の感性が光る。2時間48分と長尺だが、ドランワールドを主人公と一緒に旅をしているようで、見ていて飽きないし楽しい。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://www.uplink.co.jp/laurence/