原題 | COLD WAR 寒戦 |
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制作年・国 | 2012年 香港 |
上映時間 | 1時間42分 |
監督 | リョン・ロクマン、サニー・ルク |
出演 | レオン・カーフェイ、アーロン・クォック、チャーリー・ヤン、エディ・ポン、アーリフ・リー、ラム・ガートン、アンディ・ラウ他 |
公開日、上映劇場 | 2013年10月26日(土)~シネマート原宿、11月9日(土)~シネマート心斎橋、今冬~元町映画館 |
受賞歴 | 第32回香港電影金像奨作品賞、監督賞、主演男優賞、新人賞、脚本賞、編集賞、音響効果賞、視覚効果賞、音楽賞 |
~敵は内部にあり!先読み不可能なノンストップサスペンス~
香港映画でおなじみの繁華街、モンコックが驚くほどスタイリッシュに映し出され、泥臭さを微塵も感じさせない。黒社会ものや香港ノアールなど、仁義の世界を描いてきた香港のアクションサスペンスに新風を吹き込んだのは、共同脚本、監督のリョン・ロクマン、サニー・ルク。『グリーン・デスティニー』、『HERO』などを手掛けたアジアを代表するプロデューサー、ビル・コンにその脚本を高く評価され、デビュー作にしてレオン・カーフェイ、アーロン・クォックをはじめとする豪華キャスト出演が実現した。昨年の香港映画興行収入第1位に輝き、香港のアカデミー賞と呼ばれる第32回香港電影金像奨で9部門を受賞するなど申し分のない実績を残したノンストップサスペンス。『インファナル・アフェア』以上に先の読めない展開で、警察内部の陰謀を暴き出す骨太なストーリーが魅力だ。
繁華街モンコックの爆破事件に引き続き、別の場所で5人の警官が車両ごと失踪する事件が発生した。海外出張中の香港警察長官に代わり、行動班副長官リー(レオン・カーフェイ)が捜査指揮を執ることになったが、最新システムやGPSが機能しないことから警察内部に関与者がいることが濃厚となる。さらに人質警官の中に一人息子ジョー(エディ・ポン)がいることが判明し、リーは警察へのテロ行為と断定して、非常事態を宣言する。リーが香港警察の全組織を動員した「コードネーム:コールド・ウォー」作戦を遂行する中、保安管理班副長官ラウ(アーロン・クォック)は、私情を挟んでいるとしか思えないリーの捜査方法に異議を唱え、二人は対立するのだったが・・・。
警察組織の中を丁々発止のコミュニケーションで現在の地位まで上り詰めた現場主義のリー。一方ラウは幹部の資質があり、いわゆるエリート育ちで、組織の矛盾や無駄には遠慮なくメスを入れ、冷静に事態を分析できる次期長官に一番近い人材だ。レオン・カーファイ演じるリーと、アーロン・クオック演じるラウのライバル対決は、プライドをかけた闘いかのごとく白熱し、見応え十分。しかし、それも本作のトリックであることにすぐ気付かされる。
捜査指揮がラウに渡り、人質受け渡しのための身代金輸送と人質救出劇から、身代金の一部が紛失する新たな事件が発生する。香港警察から独立した汚職捜査機関のビリーは匿名の密告からラウこそ真犯人と断定するのだ。『李小龍 マイブラザー』で若き日のブルース・リーを熱演したアーリフ・リーが、若き情熱を剥き出しにしてラウを追い詰める姿は香港映画界の新旧対決にも映る。本当にラウが犯人なのか疑問符が渦巻く観客を煙に巻くかのように、更なる展開が次々訪れ、最後まで全貌を見せないのは警察の複雑な内部事情が深く関わっていることを暗示している。
事件や捜査状況の刻一刻変化する状況をノンストップで見せる前半に対し、後半は登場人物同士が対峙する姿をじっくり見せながら、ビル屋上での豪快な爆破シーンなど香港映画ならではの鮮烈な見せ場を作り出した。無駄をそぎ落としたスタイリッシュなサスペンスとして評価できる一方、捜査以外での登場人物のプライベートな描写を加えて人物像を浮かび上がらせることができれば、もっと観る者がキャラクターに愛着や共感を持てたのではないか。本作では語りきれなかった部分を今後どのように形にしていくのかも含めて、新しい香港の才能に注目したい。見逃せないデビュー作である。
(江口由美)
公式サイト⇒http://coldwar-movie.com/
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