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『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』

 
       

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作品データ
原題 Buddha Mountain
制作年・国 2010年 中国 
上映時間 1時間49分
監督 リー・ユー
出演 シルヴィア・チャン、ファン・ビンビン、チェン・ボーリン、フェイ・ロン、チン・ジン、ファン・リー
公開日、上映劇場 2013年9月28日(土)~K’s cinema、ユーロスペース、11月9日(土)~シネ・ヌーヴォ、第七藝術劇場、近日京都シネマ、元町映画館他全国順次公開 ※リー・ユー監督『ロスト・イン・北京』緊急上映決定! 2013年9月14日(土)~K’s cinema、10月26日(土)~シネ・ヌーヴォX
受賞歴 2010年東京国際映画祭最優秀女優賞(ファン・ビンビン)、最優秀芸術貢献賞受賞作。


 ~ウォン・カーウァイ以来の衝撃!孤独を乗り越える心の旅路~
 

  頭をガツンと殴られたような衝撃や、押さえがたい青春の衝動がスクリーンで弾ける。こんな感覚を覚えたのは、ウォン・カーウァイ監督作品以来かもしれない。交通事故で息子を亡くした中年の京劇女優と、都会を彷徨う三人の若者が共同生活をすることから始まる心の交流と魂の旅路は、それぞれの孤独から抜け出す道を示すかのようだ。今年の大阪アジアン映画祭で特集が組まれ、本作をはじめとする3本が紹介された中国女性監督のリー・ユー。前作『ロスト・イン・北京』で、今や中国を代表する美人女優ファン・ビンビンの全く新しい魅力を引き出したが、本作ではファン・ビンビンと香港の名女優シルヴィア・チャン、そして台湾人気スターのチェン・ボーリンを迎え、世代を超えた男女の苦悩や友情を、絶妙の距離感で描きだした。

  父親の再婚に納得できないディン・ボー(チェン・ボーリン)と同級生の太っちょ(フェイ・ロン)、母親に仕送りするためバーで働くナン・フォン(ファン・ビンビン)の3人が繰り広げるたわいもない青春の日々は、拠り所もなく、無防備だ。ファン・ビンビン演じるナン・フォンは、太っちょが恐喝された仕返しに乗り込み、ビール瓶を額でかち割り、血まみれのまま恐喝グループの女子へ無理矢理濃厚なキスを仕掛ける。青春の苛立たしさや危うさが痛いぐらい伝わる名シーンだ。また、電車の荷台に乗りこんで都会を抜け出し、線路の上を歩きながら「おまえはレズだろ?」と太っちょがナン・フォンをからかったり、ディン・ボーのランニングシャツを、体重が1.5倍はある太っちょが着まわしているのも、自然体で違和感がない。リー・ユー監督は若者のジェンダーフリーな関係を瑞々しく描き、従来の中国映画の枠を超えた表現力を如何なく発揮している。

  一方、ベテラン京劇女優、チャン・ユエチン(シルヴィア・チャン)は、息子の事故死後も事故車に乗っては帰ってこぬ息子の面影を追い続け、孤独の闇に覆われていた。彼女の空き部屋募集を見て間借りを申し出たディン・ボーらに度々生活のリズムを乱されながらも、少しずつコミュニケーションを重ねていく共同生活の様子がユーモアを交えて描かれる。ユエチンは次第に息子年代の彼ら一人一人に向き合い、パソコンを教えてもらう代わりに京劇の歌を披露し、失恋気分で添い寝してきたナン・フォンをやさしく抱き寄せもする。亡き息子しか拠り所がなかったユエチンだが、ようやく新しい一歩を歩みだす時が近付くのだ。

  2008年に起きた四川大震災から1年後の成都を舞台にしており、復興の陰で震災による再開発のため取り壊されるマンションの反対運動や、観音山にある崩壊した寺、仏像を修理しに皆でボランティアに通うシーンも登場し、赤裸々な復興の過程も垣間見える。また、観音山までの渓谷や線路の先に広がる風景も神秘的で、本作の大きな見どころだ。息子なき喪失感と葛藤し、孤独の淵に追いやられていたユエチンの心の動きを捉えたシルヴィア・チャンの演技に深い感動を覚えながら、観音山(ブッダマウンテン)で最後にみせた彼女の微笑みの意味を噛みしめた。
(江口由美) 

公式サイト⇒http://www.buddha-mountain.com/ 
(C) LAUREL FILMS

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