『ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区』
原題 | Centro Historico |
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制作年・国 | 2012年 ポルトガル |
上映時間 | 1時間36分 |
監督 | アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、マノエル・ド・オリヴェイラ |
公開日、上映劇場 | 2013年9月21日(土)~シネ・リーブル梅田、9月28日(土)~京都シネマ、10月5日(土)~元町映画館 |
~四者四様の語り口に酔いしれる~
映画ファンの誰もが新作を待望してやまない4人の名監督が同じテーマで、時間等に縛られず、自由奔放に、それぞれの個性、カラーをいかんなく発揮してつくりあげたオムニバス映画。ポルトガル北西部に位置し、870年もの歴史を持つ古都ギマランイス歴史地区で、どんな物語を語るべきかとの呼びかけに、フィンランド出身でポルトガル在住のアキ・カウリスマキ監督、隣国スペインのビクトル・エリセ監督、ポルトガルからは、リスボン出身のペドロ・コスタ監督、ポルト出身のマノエル・ド・オリヴェイラ監督が応えた。
早朝、街の音からはじまる、カウリスマキ監督の『バーテンダー』。旧市街地でバーを営む、寡黙な男の一日を、淡々とテンポよく描いていく。無表情な主人公は、どこか人間くさく、じっと見守りたくなるような愛すべき人物。言葉がない分、所作や表情から想像する楽しさでいっぱい。小さなバーや街の空間が心地よく、一日の時間の重みを感じる。
コスタ監督の『スウィート・エクソシスト』は、いわば哲学的な作品。ポルトガルの植民地からやってきた移民労働者の男が、エレベータの中で兵士と語りあう。ユニークな設定で、問いと答えの応酬は、難しいところもあるが、声の響きや場の空気をまるごと味わえる。
10年に1本と寡作で知られるエリセ監督が選んだのは、ギマランイスから30キロほど離れたところにある巨大紡績工場。タイトルに『割れたガラス』とあるとおり、今は「割れたガラス工場」と呼ばれる跡地になっている。1845年に創業し、一時は欧州第2の紡績工場と呼ばれるほど発展したが、1990年に経営危機に瀕し、2002年に閉鎖。そこで働いていた人たちへのインタビューで綴る。親子代々で働いていた人もいれば、乳飲み子を抱えて働いた女性もいる。工場での労働はさぞきついものであったろうが、辛かった日々について語られる言葉は、どれも肯定的で、働くことについて、人生について深く考えさせられるものばかり。長い歳月の中で、時代や文化は変わっても、人間のありよう、思いは変わらない。アコーディオンのあたたかい響きに包まれ、監督の優しい視線を感じる。
最後を飾るのは104歳のオリヴェイラ監督の『征服者、征服さる』。ギマランイスは、1143年に生まれたポルトガル王国の最初の首都であり、初代王アフォンソ1世の生地。その銅像を見ようと、カメラ片手にやってくる観光客達のざわざわした空気をうまく映像におさめている。大勢の観光客を前にしては、いかめしいはずの騎兵隊も威厳を失い、アフォンソ1世の銅像も、どこか苦笑しているかのようにみえる妙味。掌編ながら予想外のオリジナルな世界が楽しい。
どの作品からも、言葉にならない思いがしっかりと伝わってくる。描かれている世界は相当に違うが、どこか、人間に対する深い愛情、慈しみにあふれていて、深い後味が残る。あなたは一体どの作品に引きつけられるだろうか。
(伊藤 久美子)