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『ハンナ・アーレント』

 
       

 hanna-550.jpg『ハンナ・アーレント』 

       
作品データ
原題 Hannah Arendt
制作年・国 2012年 ドイツ,ルクセンブルク,フランス
上映時間  1時間54分
監督 監督・脚本:マルガレーテ・フォン・トロッタ
出演 バルバラ・スコヴァ,アクセル・ミルベルク,ジャネット・マクティア,ユリア・イェンテ,ウルリッヒ・ノエテン,ミヒャエル・デーゲン
公開日、上映劇場 2013年10月26日(土)~岩波ホール、11月23日(土)~梅田ガーデンシネマ、11月30日(土)~京都シネマ、12月21日(土)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開

 

~状況に流されず自ら考えることの大切さ~

 

 1960年,元ナチス親衛隊のアイヒマンがイスラエルの諜報機関に捕まる。彼は,多数のユダヤ人を強制収容所に移送する責任者だった。翌年,米国在住のドイツ系ユダヤ人で哲学者のハンナ・アーレント(1906~1975)がイスラエルに渡航する。人道に対する罪に問われたアイヒマンの裁判を傍聴するために。彼女は,ホロコーストの原因を哲学的に追究し,1963年にレポートをニューヨーカー誌に発表するが,その反響は凄まじいものだった。

 ハンナは,人間はなぜこのような残虐なことができるのかを考える。裁判シーンでは実際のアイヒマンの言動が記録された映像が使われている。彼は,根源的な悪ではなく,上官の命令を忠実に遂行しただけで,自ら考える意思を持たなかった。ハンナは,実験により証明されて今では周知の“悪の凡庸さ”を指摘したが,その時期が早すぎた。更にユダヤ人指導者がナチスに協力したと指摘し,ユダヤ人を裏切ったナチス擁護者と非難される。

 彼女は,自らも収容所から逃げ延びた厳しい経験をしたが,感情に流されず論理的に考察した結果を発表した。それが家族を殺され何とか生き残ったユダヤ人の心情を逆撫でしてバッシングを受ける。民族(ユダヤ人)や団体(ナチス)ではなく,友人を愛したハンナが,その友人にも背を向けられる。それでも屈しなかった彼女は,傲慢でも冷酷でもなく,自ら思考するという強固な信念に貫かれていた。思考を映像化した希有な作品である。

 ハンナが人生最大の苦境に置かれた時期を切り取っており,その着眼点はいい。ただ,ハンナの回想シーンで,後にナチスに入党したハイデガーとの恋愛も描かれる。彼女の別の側面を示したものといえるが,この過去が彼女の思考に何らかの影響を及ぼしたかも知れないとの疑問が浮かんでくる。この点を除けば,論理的に構築された見応え十分の作品だ。ハンナが自らの立場を集約する最後のスピーチが,クライマックスに用意されている。

(河田 充規)

公式サイト⇒ http://www.cetera.co.jp/h_arendt/

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