『父の秘密』
原題 | Despues de Lucia(英語:After Lucia) |
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制作年・国 | 2012年 メキシコ |
上映時間 | 1時間43分(R15+) |
監督 | 監督・製作・脚本:マルケル・フランコ |
出演 | テッサ・イア、ヘルナン・メンドーサ、ゴンザロ・ヴェガJr,タマラ・ヤズベック |
公開日、上映劇場 | 2013年11月2日(土)~ユーロスペース、12月7日(土)~梅田ガーデンシネマ にて公開 |
~日常に潜む暴力性を可視化するスリラー~
妻を亡くしたロベルトと母を亡くしたアレハンドラは,車で10時間以上かけて新しい土地にやって来た。2人とも深い悲しみを抱えながら,ロベルトは怒りを抑えられず,アレハンドラは望みを見出せない。2人は父と娘であるにもかかわらず,同じ部屋にいても空間を共有しておらず,視線を交えることもない。前の家の物を飾ろうと言う娘に,父は新しく買いたいと答える。互いに気遣ってはいるが,その間には埋められない隔たりがある。
だが,家族の再生の物語ではない。逆に,父と娘の抱える空洞は広がる一方で,闇は深まるばかりである。母は,娘に運転を教えていてトラックと衝突したようだ。交通事故から始まった不意の暴力は,アレハンドラに対する学校でのいじめへと連なっていく。日常の中には数多の不条理な暴力が潜んでいる。これに取り憑かれると,まるで蟻地獄に沈んでいくように身動きできなくなる。その様子がつぶさに観察するように描かれていて怖い。
新しい学校で最初は友達ができたように見えるアレハンドラだが,ある動画がネットで流されたことから,その立場が大きく変貌する。同級生たちは,いじめをエスカレートさせ,アレハンドラを追い詰めていく。善悪の判断が失われ盲目的に大勢に従う集団心理における負の側面を見せつけられる。被害を受けることだけでなく,普通の人々が無意識のうちに加害者へと変容することの恐ろしさを観る者の心に刻み込む。だからこそ一層怖い。
しかも,魂の救済や希望の光はここには存在しない。理不尽で執拗な暴力にはひたすら耐えて,最後は逃げるほかない。希望を砕かれたアレハンドラには空虚感だけが残る。一方,ロベルトは,信じ難いほど安直に娘が死んだと思い込み,復讐に向かう。人を人とも思わない彼の所為には戦慄が走る。これもまた理不尽で惨い暴力だ。怒りを爆発させたロベルトには寂寥感だけが残る。人間の持つ攻撃性を冷徹に見据えた戦慄のスリラーである。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://lucia.ayapro.ne.jp/
Despues de Lucia (C) 2012.