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『ビザンチウム』

 
       

byzantium-550.jpg『ビザンチウム』

       
作品データ
原題 Byzantium
制作年・国 2012年 イギリス,アイルランド 
上映時間 1時間58分
監督 ニール・ジョーダン
出演 ジェマ・アータートン,シアーシャ・ローナン,サム・ライリー,ジョニー・リー・ミラー,ケレイブ・ランドリー・ジョーンズ
公開日、上映劇場 2013年9月20日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)他全国ロードショー

 

~こんなにも神秘的な少女の自立と旅立ち~

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 姉妹のようにしか見えないが実は母と娘のクララとエレノア。エレノアの愁いに満ちた表情とモノローグで幕を開ける。セクシーでタフに生きるクララと繊細で物静かなエレノア。2人の人となりや関係性,彼女らが置かれた状況等が小気味よく示される。この導入部の展開は,自ずと観る者を引き込んでいく力がある。2人の過去に何があり,エレノアはどこに向かおうとして,それにクララがどのように関わっていくのか,興味は尽きない。

 

byzantium-3.jpg この詩情にあふれた神秘的といえる映像世界を作り上げたのはニール・ジョーダン監督だ。悠久の時を生きるヴァンパイアの抱える苦悩を,前作「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」にも増して,切なく美しく力強く描いていく。1804年生まれのエレノアは,206年後の現在も16歳で,捨て去れない過去という重荷を背負って生きている。クララと共にたどり着いた”ビザンチウム”も,過去の空気を現在に持ち込んだような佇まいを見せる。

 

byzantium-4.jpg タイトルは,アイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イェイツの「ビザンチウムへの船出」に因むものだという。老いや死が避けられない現実の世界から老いや死を超えて生きる永遠の世界への旅立ち。エレノアにとって,それは夢想ではなく宿命だった。そして彼女が青年フランクに恋したとき,母親からの自立,仲間との新たな第一歩が約束されていた。永遠の命は死を覚悟した者だけが得られるという。その転生の瞬間が実に美しい。

 

byzantium-5.jpg 雄大な滝が赤く染まり,その煌めきが目に飛び込んでくる。以前と違う自分への生まれ変わりが歓喜で包まれるようだ。また,エレノアがピアノでシューベルトの「夜と夢」を奏でると,その音色に引き寄せられるようにフランクが現れる。印象的な出会いのシーンだ。秘密を抱え,それを守るため嘘をつき,永遠の孤独に耐える,というダークな世界。それを本作ほどロマンチックに時を超えたラブストーリーとして描ける監督は他にいない。

(河田 充規)

公式サイト⇒ http://byzantium.jp/

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