『オン・ザ・ロード』
原題 | ON THE ROAD |
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制作年・国 | 2012年 フランス、ブラジル |
上映時間 | 2時間19分 |
原作 | ジャック・ケルアック 『路上/オン・ザ・ロード』 |
監督 | ウォルター・サレス |
出演 | サム・ライリー、ギャレット・ヘドランド、クリステン・スチュワート、エイミー・アダムス、トム・スターリッジ、キルスティン・ダンスト、ヴィゴ・モーテンセン |
公開日、上映劇場 | 2013年8月30日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、9月7日(土)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ二条 ほか全国順次公開 |
~旅の空の下、自由奔放に生きた青春時代へのノスタルジー~
1950年~60年代の若者に多大な影響を与えたアメリカの作家、ジャック・ケルアックをご存知だろうか?代表作は本作の基となった『路上/オン・ザ・ロード』や『禅ヒッピー』『孤独な旅人』など。ボブ・ディランが「僕の人生を変えた本」と言うほど。他には、ジム・モリソンやジョン・レノンなどのミュージシャンや、デニス・ホッパーやジム・ジャームッシュ、ジョニー・デップなどの映画人も多大な影響を受けているらしい。
第二次世界大戦後、戦勝国のアメリカは豊かな生活を謳歌しつつも、共産化を恐れ、政治も生活も保守的傾向にあった。戦後生まれの若者の中には、そうした社会通念にとらわれることなく、世界を放浪しながら身も心も開放させていくことが、ある種の流行となった。フリーセックスやドラッグを乱用したヒッピーと呼ばれる人々が多く生まれ、そうした熱病にかかったような若者の間でバイブル的存在だったのが、この『路上/オン・ザ・ロード』という小説だった。
ところが、小説といっても起承転結の骨格がある訳でもなく、即興的な散文のような原作は、それほど影響力があるにもかかわらず、未だかつて映画化されたことはない。脚本の段階で挫折してしまうケースが多かったようだ。『ゴッド・ファーザー』シリーズや『地獄の黙示録』などを撮った巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督が、1979年に本作の映画化権を取得したが、自分では撮らず、他に映画化できる監督・脚本家をずっと探していたという。コッポラ監督の本作への強い思い入れがうかがえる。
ようやくコッポラは、チェ・ゲバラが若い頃南米をバイクで旅した映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2003)を監督したウォルター・サレスのロードムービーのセンスに出会う。そうして完成したのが本作という次第。
戦後間もなくの頃、父親を亡くしたサル(サム・ライリー)は、ニューヨークでディーン(ギャレット・ヘドランド)という今まで会ったことがないような破天荒な生き方をする若者と出会う。デンバーから16歳の妻メリールウ(クリスティン・スチュワート)を連れてやって来たディーンは、少年院を出ても車窃盗や万引を繰り返していた。彼のマッチョでセクシーな風貌は、女性ばかりでなく男性にも好かれ、サルは既成概念を突き破るようなディーンに衝撃を受ける。自分とは対極にあるような彼と意気投合したサルは、都会を抜け出し、ディーンのいるデンバー目指して旅に出る。
それを機に、ディーンとメリールウらとアメリカ大陸各地を旅をしたり、ディーンとメキシコへ行ったりした。そうした旅の仲間や道中出会う人々や出来事を書き綴ったのが『路上/オン・ザ・ロード』である。登場する人物は、名前こそ違うが、実在の人物を描いている。劇中のサルはしきりとメモをとっていた。思いついたことをその辺りにある紙に走り書きしていた。まるで、情熱が冷めないよう時を止めようとしているかのように――。
旅の空の下、広大な荒野に真っ直ぐに延びる道に立つと、誰しも人生観が変わるのではないかと思えるような映像は、ダイナミックでエネルギッシュだ。ただ、欲望を発散させるような無軌道な旅をする人物の内面性をあまり感じられなかったのは残念。破天荒だからいい訳ではない。社会通念に縛られないから自由だという訳でもない。青春の残像とは、必ずしも美しいものばかりではないことに改めて気付かされる。この映画をなぜ今作る意味があるのか――「すべてを自ら探究しようとする若者の欲望にあると思う」と語るウォルター・サレス監督の意図は、主人公サルの人物への好奇心の強さや鋭い洞察力に反映しているようだ。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://www.ontheroad-movie.jp/
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