『利休にたずねよ』
制作年・国 | 2013年 日本 |
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上映時間 | 2時間03分 |
原作 | 山本兼一 |
監督 | 田中光敏 |
出演 | 市川海老蔵 中谷美紀 成海璃子 福士誠治 クララ 袴田吉彦 黒谷友香 /市川團十郎(特別出演)/ 壇れい 大谷直子 柄本明 伊武雅刀 中村嘉葎雄 伊勢谷友介 大森南朋 |
公開日、上映劇場 | 2013年12月7日(土)~全国ロードショー |
受賞歴 | 第37回モントリオール世界映画祭最優秀芸術貢献賞 |
~高麗美女への情熱的な恋に生き抜いた利休~
100年以上の歴史がある京都の時代劇にまたひとつ格調高い映画が生まれた。山本兼一の直木賞受賞作を、田中光敏監督が東映京都撮影所で撮った『利休にたずねよ』。安土桃山時代の茶人・千利休(市川海老蔵)を描いた物語は見事なまでに“チャンバラのない時代劇”。「日本の美とは何か」を問う稀有な映画だ。
時代劇の醍醐味はチャンバラ、立ち回りというのが日本映画の父・マキノ省三以来の常識。最近の傑作時代劇『十三人の刺客』や『一命』でも見どころはやはり立ち回りだった。その常識に挑んだのがこの映画。当時、随一の文化人・利休(市川海老蔵)がなぜ時の権力者・秀吉(大森南朋)から切腹を命じられ、何ら抵抗することなく受け入れたのか…。歴史上のミステリーを新たな解釈で解いて見せた。
「美しいものだけにぬかづく」利休の誇り高い美意識を物静かな語り口で描く物語、彼の心の奥底には、一体何があったのか?
映画は“利休切腹の日”から始まる。雨嵐が吹き荒れる中、3千の兵に取り囲まれても泰然自若とする利休に、妻(中谷美紀)「あなた様にはずっと想い人が」と問う。
その日から数年ごとに遡る逆カウントダウン構成で人間・利休の生きざまを浮き彫りにしていく。利休は、天下取りを目指す織田信長(伊勢谷友介)の茶頭を皮きりに、美を見極める天賦の才を認められて名を高めていく。かつて織田の家臣だった秀吉が信長に代わって権力をほしいままにし、関白の地位に上り詰める。 利休もまた秀吉に重用されるが、茶器を法外な値で売ったり、山門に利休像を立てたことから不興を買い、何よりも秀吉にひれ伏さない態度が不遜とされて切腹を申し付けられる。
農民の出で教養のない秀吉も、利休の美意識は理解出来、彼がいつも「懐に入れて大事にしている高麗の壺を差し出せば許す」と譲歩する。だが、利休はこれにも頑として応じず、黙したまま自刃して果てる…。 なぜかくも頑なだったのか? プライドだけではない何か、茶人・利休の美意識を確立し出発点になったのは、若き利休がふと垣間見た高麗美女の面影だった、という大胆な新解釈だ。 逆構成で“利休切腹”まで届いたあと一転、時代は放蕩に明け暮れる魚問屋の息子=若き利休が登場、高麗からさらわれて来た女と出会う。凛として気高い女に心を奪われた彼は言葉を覚え、食事をさせるなど世話を焼く。だが、彼女は一国の王への貢ぎ物、しょせん叶わぬ恋だったが、期限が来た時、すべてを投げ打って女を連れて遁走する…。
最後まで秘められた青年利休の燃える恋。これはミステリーで言えば“倒敘法”と言うべき手法。最初に切腹があり、そこに至る経過が語られ、最後に原因となった秘密を明かす…。それは情熱的な恋に生き、その美に殉じて死んだ男の究極のラブストーリーでもある。高麗美女の毅然とした立ち居振る舞いは、利休が憧れた李朝文化や陶器の暗喩でもあろうか。
チャンバラは無用だった。代わって登場したのは本物の美。東映京都撮影所を拠点に、三井寺、大徳寺、南禅寺、彦根城などにロケ撮影を敢行したほか、利休が使用した茶器も「万代屋宗安(もずやそうあん)伝来 長次郎作」の「黒樂茶碗」には「銘 万代屋黒」と入っている、値段のつけようもない文化財。森田大児プロデューサーが「映画美のために」と借りてきた逸品だ。
茶道の心得ある海老蔵だが、利休の血を受け継ぐ茶道の名門に付きっきりで指導を受け、撮影に臨んだ。刀と違い、画面ではいわば小道具の茶碗にまで本物を使う気構えが、この映画の日本美を醸し出している。 原作者自ら「利休にはこの人しか考えられない」と熱望した市川海老蔵は、恋に燃える青年時代から、風格に満ち、死を静かに受け入れるまで、幅広い利休を演じて見ごたえあり。
「日本の文化そのもの、美しい映画を撮りたい、と思った」と話す田中光敏監督。チャンバラなき時代劇は茶室という日本そのものの空間に深遠な美を描きだした。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://www.rikyu-movie.jp/
(C)2013「利休にたずねよ」製作委員会