制作年・国 | 2013年 日本 |
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上映時間 | 2時間1分 |
監督 | 是枝裕和 |
出演 | 福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー、風吹ジュン、國村隼、樹木希林、夏八木勲 |
公開日、上映劇場 | 2013年9月24日(火)~27日(金)先行公開、9月28日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、OSシネマズ神戸ハーバーランド、MOVIX京都、TOHOシネマズ二条他全国ロードショー |
受賞歴 | 第66回カンヌ国際映画祭審査員賞 |
~家族とは、幸せとはを真摯に考える~
スーツ姿の親子三人が、私立小学校の面接試験でぎこちない笑みを浮かべる。教え込まれた模範解答をきちんと言えた息子とほっとしたような両親。どこにでもいそうな上流家庭の親子だが、どこか空虚さを感じずにはいられなかった。『誰も知らない』、『奇跡』の是枝裕和監督が、福山雅治を主役に迎え、出生時に子どもを取り違えられた二組の家族の葛藤と、親子の揺れる感情を余韻のある映像で丁寧に描く。生まれてからずっと大事に育ててきた我が子と、全く違う家庭環境や価値感で育てられた実の子。どちらかを選択せざるをえない親の気持ちだけでなく、親の変化を敏感に感じ取る子どもの目線もしっかり捉え、是枝監督らしい繊細な演出が光る。
大手建築会社に勤め、妻みどり(尾野真千子)、長男慶多(二宮慶多)とホテルのような高級マンションで暮らす良多(福山雅治)は、優しすぎる性格の慶太に説教ばかり。無事慶多が小学校受験に合格した矢先、みどりが出産した病院から連絡が入り、出生時に慶多は取り違えられ、生物学的親子ではないと告知される。良多の実の子は、小さな電気店を営む斎木夫妻(リリー・フランキー、真木よう子)の長男琉晴(黄升げん)として育てられていた。我が子なのに気づかなかったと自分を責めるみどりを横目に、良多は最善の解決策を考え始める。
現代の子育て世代を映し出す対照的な二組の家族の描写と、それを演じる役者たちの演技が見事だ。典型的な一人っ子家庭で、父親は仕事が忙しく、母親と二人きりの時間を過ごすことがほとんどの慶太。三人兄弟の一番上である琉晴は、食べるときもぼんやりしていると食べるモノがなくなるような生存競争の激しい賑やかな家で、妹たちの面倒を見ている。生活レベルや育て方の違いをリアルに浮かび上がらせながら、両家の交流を通じて実の子との新しい絆作りに四苦八苦する姿をみせていく。母親同士や子どもたちは意気投合しても、父親同士は自分流を譲らないところが面白い。
「育ての子」と「血のつながりのある実の子」のどちらを選ぶのかという究極の問いを主軸にしながら、6年間育ててきたわが子と離れてはじめて、子どもの気持ちに気づき、その気持ちを尊重できる「父」になっていく良多の泥臭い成長ぶりが静かな感動を呼ぶ。親が子どもを育て、子どもによって親が育つ双方向の関係こそ、福山雅治と共に是枝監督が描きたかったことではないだろうか。子どもの頃ピアノで弾いたブルグミュラー、時には今まで育ててきた子を、時には実の子を乗せて走る車の姿など、何気ないシーンや音に自分の子どもの頃の記憶を重ね、観終わったあとも「家族とは?幸せとは?」と自分に問い続けていた。観る者それぞれが、エンディングの先の物語を紡いでいくのだ。
(江口由美)
公式サイト⇒http://soshitechichininaru.gaga.ne.jp/
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