『楽園からの旅人』
原題 | Il villaggio di cartone |
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制作年・国 | 2011年 イタリア |
上映時間 | 1時間27分 |
監督 | 監督・脚本:エルマンノ・オルミ |
出演 | マイケル・ロンズデール、ルトガー・ハウアー、アレッサンドロ・アベル、マッシモ・デ・フランコヴィッチ |
公開日、上映劇場 | 2013年8月24日(土)~梅田ガーデンシネマ、10月12日(土)~神戸元町映画館、近日~京都シネマ にて公開 |
~真に“心ある人”の姿とは…~
この映画に登場する人の誰も名前がわからない。いつどこの街でも起こりうる、叙事詩のような出来事に思える。どの顔もおだやかで、強い意思の力を秘めているようで、忘れることができない。
小さな街の教会が終わりを告げる。解体を間近に控え、悲嘆にくれる老司祭をよそに、工事の作業員たちは、天井に釣り飾られたキリストの磔刑像をクレーンで下ろし、壁に飾られた額の絵や彫像を次々と梱包していく。壇上に立って説教をしようとする老司祭を、教会堂の管理人が諌める。街の人たちは開け放たれた扉から傍観視するだけ。
壁がむきだしになり、殺風景になった礼拝堂にやってきたのは、不法移民のアフリカ人たち。怪我をして教会に逃げ込んできた移民の一人を老司祭がかくまったことがきっかけ。みごもった娘もいれば、イスラム原理主義者もいる。ひとりぼっちのあどけない表情の少年、子連れの家族とさまざま。聖堂の一角に、アフリカからの移民たちが集う、即席の小さな共同体ができる。映画の原題は「段ボールの村」。たまたま一緒になった旅人たちが、次の目的地までの幾晩を小さな教会で過ごし、生活をともにする。ゆるやかな連帯感がいい。ほとんどしゃべらず、目と目で会話する。おだやかなたたずまい、深く静かな光をたたえた瞳…、誰もがいい表情をしている。
しかし、そこにも地区の保安委員が不法移民の取締りにやってくる。法律をふりかざし、身元の不確かな者を受け入れると処罰されると老司祭に迫る。弱り切った身体で保安委員を追い払い、精一杯の勇気をふるって善行を成し遂げようとする老司祭の気丈な姿は、神々しくも痛々しい。教会は、本来、弱い人たちのためにあるはず。ものいえぬ人々に居場所を提供し、彼らを守ることこそ、神に仕える者の使命とでもいいたげに、老司祭はひとり、慈悲の心、良心を持つ人間としてのあるべき姿を教えてくれる。肌の色が異なるというだけで、黒人を排斥しようとする現代の一部の風潮に危惧する監督の思いが伝わる。
印象的なシーンがある。冒頭、老司祭が祭壇で教会の取壊しを嘆いていると、礼拝堂の入口の扉が開き、小さな少年が顔を出す。好奇心いっぱいの笑顔。ドアからさしこむ光が、暗い聖堂に長い影をつくるのが、俯瞰ショットで示される。少年はすぐ扉を閉め、去ってしまうが、ひょっとしたら、この少年は、老司祭の何十年もの昔の姿に思えなくもない。なんの偏見もなく、どんな人にも開かれた、子どもの開放的で柔軟な心。教会が取り壊されようとするその時、老司祭は、子どもが持つ、柔らかで寛容な、慈愛に満ちた心を取り戻したといえるのかもしれない。
最後に割れる天井のステンドグラスは何を意味するのだろう。「歴史という物語が私たちを変えるか、私たちの物語が歴史を変えるか」という最後のテロップの言葉をかみしめたい。人間を信じようとする監督の思い、希望が全編にあふれ、老司祭と移民たちとの、国境や人種を超えてつながった固い絆、移民の人たちの無言のたたずまいや足音が、深い余韻となって残った。
(伊藤 久美子)
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