『もうひとつの世界』《VIVA!イタリア③》
原題 | Fuori dal mondo |
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制作年・国 | 1998年 イタリア |
上映時間 | 1時間40分 |
監督 | ジュゼッペ・ピッチョーニ |
出演 | マルゲリータ・ブイ(『題名のない子守唄』『ローマ法王の休日』『素晴らしき存在』『赤鉛筆、青鉛筆』)、シルビオ・オルランド(『ぼくの瞳の光』『トリノ、24時からの恋人たち』『ボローニャの夕暮れ』『恋するローマ 元カレ元カノ』) |
公開日、上映劇場 | 2013年8月10日(土)~8月23日(金)、テアトル梅田にて2週間限定上映、近日公開~神戸元町映画館、京都みなみ会館 |
~修道女の心に芽生えた迷いを優しく、温かく描く~
映画は、これから修道女になろうとする少女達にシスターが教えを諭す場面から始まる。タイトルの意味するところは深い。「もうひとつの世界」とは、修道女のカテリーナからすれば、私たちが生きる俗世間のことであり、私たちからすれば、彼女たちの属する聖なる世界に思える。また、人が仕事をしたり、現実を生きる時の外面的な世界に対し、心の内側の内面的な世界も「もうひとつの世界」と呼ぶことができるかもしれない。いつしか心に抱いていた思いや願いに気が付き、真剣に迷う人間の姿を優しくあたたかく見つめた作品。
修道女のカテリーナは、11か月後に「終生誓願」という、生涯を修道生活に捧げる儀式を控え、ミラノを訪れる。公園で偶然、ジョギングをしていた男から、捨て子を拾ったと、生まれたばかりの赤ん坊を手渡される。赤ん坊が包まれていたセーターには、エルネストの経営するクリーニング店のタグがついていた。エルネストは仕事熱心なわりに、従業員の名前も覚えようとせず、友達もいない孤独で独身の中年男。セーターはエルネストの物とわかり、カテリーナが赤ん坊の母親を探すのに、彼も同行することになる…。映画は、もう一人の家出少女、テレーザの姿も描き、やがて3人の運命が交錯していく。
カテリーナは赤ん坊の様子をみるため病院通いをするにつれ、段々と赤ん坊に情を移し、養子に出さずに、自分の手で育てられないか考えたりする。賢く信仰熱心で、生涯を神に仕えることに何の疑問も感じていなかったカテリーナの心に迷いが生じる。娘の愛を取り戻そうとするカテリーナの母親や、修道女になるための初誓願式を前に、信仰生活に向いているか悩む少女とのやりとりを通じ、カテリーナの葛藤が浮き彫りになる。聖なる世界とは別の、もうひとつの人生への思いがふいに湧き上がり、戸惑いながらも、真剣に悩み苦しむカテリーナをマルゲリータ・ブイが丁寧に演じ、心に迫る。
エルネストもまたいつしかカテリーナに想いを寄せるようになる。今まで心を閉ざし、人と関わろうとしなかった彼が、従業員の女性や他人にも関心を寄せるようになり、少しずつ変わっていく。それぞれの日常がメロディアスな音楽とともに情感豊かに描かれ、味わい深い。
カテリーナは、修道女である以前に、母性と優しさにあふれるひとりの女性であり、彼女の悩みはとても人間らしいもので、観客の深い共感を呼ぶ。人は誰しも、制服姿の外面的な仕事の世界で生きているだけではなく、もうひとつの、豊かで自由な内面の世界を持っている。そこには、今まで気付かなかった思いや、すっかり忘れていた願いもあるかもしれない。いつでも心の中にその扉は開いていると思うことで、新しい毎日に立ち向かっていく元気が出てくるような気がする。
(伊藤 久美子)