『クロワッサンで朝食を』
原題 | Une Estonienne a Paris |
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制作年・国 | 2012年 フランス= エストニア=ベルギー |
上映時間 | 1時間35分 |
監督 | 監督・脚本:イルマル・ラーグ |
出演 | ジャンヌ・モロー、ライネ・マギ、パトリック・ピノー |
公開日、上映劇場 | 2013年7月27日(土)~梅田ガーデンシネマ、8月24日(土)~京都シネマ、9月7日(土)~神戸アートビレッジセンター |
~人生の後半にさしかかった二人の女性が教えてくれたこと~
舞台はパリ。老いてなお変わりうる人間のしなやかさが爽やかに伝わり、観終わって心地よい余韻に包まれる。異郷の地で出会った二人の女性の人生が交錯し、新しい扉が開かれたようにも思えるラストに大いに勇気づけられた。
バルト三国の一つエストニアの田舎町で母の最期を看取ったアンヌの下に、家政婦に来てほしいとの依頼が舞い込む。期待に胸ふくらませ、生まれて初めてのパリに旅立つアンヌ。世話をするのは、高級アパルトマンで一人暮らしをする老婦人フリーダ。雇い主は近くのカフェを経営する中年紳士ステファン。家政婦なんて要らないと邪険にされ、アンヌは何度も辞めようとするが、ステファンに説得され留まる。そうこうしているうちに、しだいにみえてくるフリーダの過去と孤独。フリーダの横柄な態度に反感を募らせていたアンヌは、彼女が普段みせない心の内側に、思いを寄せるようになる…。
フリーダは若くしてエストニアからパリに出て成功を手にするが、故国はソ連に占領され帰れない国になっていた。友達もおらず、恋人だったステファンからはどこか距離を置かれ、寂しさにいらだつフリーダを演じるのはジャンヌ・モロー。頑固で気難しいがどこか憎めず、誇り高く凛としたたたずまいは、大女優ならでは。ステファンの前では、女らしさやこどもっぽい甘えやわがままもみせると同時に、アンヌには寛大な友情と風格をみせ、いろんな表情で観客を魅了する。
アンヌとフリーダの関係が微妙に変化し、二人の距離が少しずつ縮まっていく様が丁寧に描かれる。さりげない日常の描写と、俳優たちのきめ細やかな表情から、言葉を介さなくてもその心境が伝わる。監督の母の実話を基にした物語。女同士の友情がたのもしい。カフェに行くのに、フリーダが、自分のおしゃれなトレンチコートをアンヌに贈ったり、アンヌが買ったパンプスをきれいだとほめる。幾つになっても装うことに無関心ではいられない姿が、人生の楽しみのひとつを教えてくれる。アンヌが、夜ごと、ひとりでパリの街をウィンドゥショッピングしたり観光名所を訪れて、少女のように心ときめかせ、散策を楽しむ姿がいい。早朝のパリの空気に震える感動がストレートに伝わる。
いわば人生で百戦錬磨してきたような女たちの魂が触れ合う瞬間、二人のすてきな笑顔にほろりとさせられた。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://www.cetera.co.jp/croissant/
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