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『ローン・レンジャー』

 
       

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『ローン・レンジャー』

       
作品データ
原題 The Lone Ranger 
制作年・国 2013年 アメリカ 
上映時間 2時間30分
監督 ゴア・ヴァービンスキー
出演 アーミー・ハマー、ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター
公開日、上映劇場 2013年8月2日(金)~丸の内ピカデリー1ほか全国にて公開全国ロードショー

 

~甦る、覆面ヒーローに胸躍らせた日々…~

 

 スクリーンから流れると思わず体が反応してしまう馴染み曲がある。最近ならトム・クルーズ『ミッション・インポッシブル』。往年の外国テレビドラマ「スパイ大作戦」のテーマ曲としておなじみ。これが66年放送開始。あの頃は外国テレビドラマ全盛期。戦後生まれの団塊・子供がテレビで初めて見た“身近な外国”。テーマ曲は黄金旋律だった。「ローハイド」、「サンセット77」、「ライフルマン」、「幌馬車隊」に「ララミー牧場」…。

 今年、もっと血沸き肉踊る懐かしいテーマ曲に出会った。ジョニー・デップ、アーミー・ハマー主演による話題の西部劇『ローン・レンジャー』である。テーマ曲は当時、題名も知らなかったが、勇壮で軽快な「ウィリアム・テル序曲」だった。小学生時代、跳び箱を馬に見立ててヒョイと飛び乗り「ハイヨー、シルバー!」と叫んだ経験は誰もが一度はあると思う。

 今夏のアメリカ映画でひときわ異彩を放つのがこの大型西部劇。ジェリー・ブラッカイマー(製作)とゴア・ヴァービンスキー(監督)による新作は期待に違わず血沸き肉踊る痛快アクションだが、そこはジョニデ、並みのヒーローもので収まらない。黒マスクのヒーロー、ローン・レンジャーはハマーに任せ、ジョニデは顔を白塗りにし、終始すっとぼけたネイティブ・アメリカン、トント役を怪演、絶妙な肩透かしを食わせる。痛快無比だけど、すこぶるおかしい。

 東部で法律を学び検事になった若いジョン・リード(ハマー)が故郷テキサスに帰る列車には2人の囚人が乗っていた。コマンチ族の怪しい悪霊ハンター、トント(ジョニデ)と悪名高い無法者ブッチ・キャベンディッシュ(ウィリアム・フィクトナー)。脱走を企むブッチは仲間たちが追い付くや見張りのレンジャーを銃撃して逃げる。だが、トントにはそれは待ちかねた“復讐”の始まりだった。

 ブッチはド派手に脱走。機関士が殺された列車は暴走、ジョンとトントは乗客を救うため、機関車と列車を切り離すと列車は荒野をばく進する…。

 冒頭からど派手な列車アクションで度肝を抜かれる。『パイレーツ~』で世界を海賊のトリコにしたブラッカイマーの狙いがストレートに伝わる。海賊の次は痛快西部劇の復活だった。 ジョンはテキサス・レンジャーを率いて無法者と戦う兄・ダンとともにブッチを追跡。ダンの妻、レベッカ(ルース・ウィルソン)はジョンの憧れの女性だったというロマンスが活劇の中の彩り。待ち伏せされて、ダンのレンジャー部隊は全滅、ダンも「レベッカを頼む」と言い残して息を引き取る。

 一方のトントは牢を抜け出し、壮大な復讐計画のパートナーにジョンを選ぶ。彼は「偉大な戦士が自分の復讐に手を貸す」という聖なるお告げを信じていた。死んだと思われていたジョンは、トントが兄の皮のベストを切り抜いて作ったマスクを着用、白馬シルバーに乗ってローン・レンジャーとして甦る…。

 ローン・レンジャー登場までが導入部。テンポのいいアクションと2人の因縁話は複雑だが、大筋は26年前に少年だったトントをだまして村の秘密(銀の在処)を聞き出し、村を全滅させたブッチへの執念の復讐譚だ。

 テレビ版「ローン・レンジャー」は脇役トントの記憶は薄かったが当時、ネイティブ・アメリカンがかくも肝心な役回りを務めることがちょっと不思議でもあった。アパッチ族やコマンチ族などネイティブ・アメリカンは西部劇では長年、悪役専門だった。後年見た西部劇、ジョン・フォードの『駅馬車』(39年)は、様々な乗客が乗った駅馬車がアパッチ族に襲撃され「どう逃げ切るか」と手に汗握らせた。最後には騎兵隊が駆けつけ、流れ者リンゴ・キッド(ジョン・ウェイン)らと撃退する。

 活劇は悪役抜きでは成り立たず、実際の西部開拓の歴史では実話でもあっただろう。だが、こうした常識に疑問が投げ掛けられたのは多様な価値観が出てきた60年代から。「騎兵隊=正義、ネイティブ=悪役」の図式も否定された。

  ジョン・フォードも遺作『シャイアン』では、まるで謝罪するような物語展開だった。白人によって狭い居留地に押し込められたシャイアン族は飢えと病気に苦しみ、許可を待たず故郷への帰還を目指す。だが、騎兵隊は無謀にも武力制圧の挙に出る。白人の圧制に、やむなく立ち上がったネイティブ・アメリカンという図式は『駅馬車』とは正反対だった。

  決定的に“西部劇の嘘”を暴いたのが70年、ラルフ・ネルソン監督『ソルジャー・ブルー』だ。19世紀、コロラド州で600人のシャイアン族が騎兵隊に虐殺されたという史実の映画化で暴かれた“西部劇の真実”には驚いた。騎兵隊がシャイアン族を殺りくし、戦利品として頭皮を剥ぐことに狂奔する姿は実に生々しかった。ベトナム反戦運動が盛り上がり、反権力の時代だったとはいえ、西部開拓の歴史やフロンティア・スピリットをひっくり返してみせたのだった。

  以後、アメリカン・ニューシネマやマカロニ・ウェスタンの台頭もあり、米西部劇は衰退していく。90年、ケヴィン・コスナー監督主演の『ダンス・ウィズ・ウルヴズ』は、主人公の北軍中尉が開拓のフロンティアへの赴任を許され、ネイティブ・アメリカンの仲間として生きる、という嘘を排した物語が感動を呼び、アカデミー賞の作品、監督、脚色など6部門受賞した。良心的な白人の新たな西部開拓史だっただろうか?  こうして見ると「ローン・レンジャー」は興味深い。アメリカでは49年(日本では58年)から放送され、56年には映画化もされている。その時から、トントは「インディアン、嘘言わない」の決めゼリフを口にし、ローン・レンジャーを「キモサベ」(信頼できる奴)と呼ぶ、彼の正直で勇敢な相棒だったのだから、映画界のざんげよりは20年早い。少年が博物館でトントの人形と話すところから始まる一大冒険物語には「本人の口から真実を伝える」という意味が込められているのかもしれない。

(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://www.disney.co.jp/loneranger/

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