『SHORT PEACE』
制作年・国 | 2013年 日本 |
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上映時間 | 1時間08分 |
監督 | 大友克洋(「火要鎮」)、森田修平(「九十九」)、安藤裕章(「GAMBO」)、カトキハジメ(「武器よさらば」)、森本晃司(オープニングアニメーション) |
公開日、上映劇場 | 2013年7月20日(土)~丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、他全国ロードショー |
~日本が誇るアニメ界の精鋭集結!~
近年、日本といえば“アニメ”というイメージが世界に定着している。邦画界においても、興行収入だけでなく、作品の構成力や内容、テーマ性においてもアニメ映画の方が質が高いと思う。実写映画では創造力を掻き立てるような作品が少なくなってしまい、説明過多なセリフや人気アイドルに頼る傾向が強い。そんな中、この夏は宮崎駿監督の『風立ちぬ』や高畑勲監督の『かぐや姫の物語』、そして、大友克洋監督を中心とした日本アニメ界の精鋭が集結した5話から成る『SHORT PEACE』が、とりわけ邦画界に光明をさしている。
本作企画の発端は、フランスはスイスに近いローヌ=アルプ地方にあるアヌシーというアヌシー湖ほとりにあるリゾート地で開催される《アヌシー国際アニメーション映画祭》で、大友克洋監督と土屋康昌プロデューサーがアニメ短編映画で盛り上がっているのを見てからだという。しかも、出品するなら日本的なものをテーマにした方がいいというアドバイスまで受けて、日本文化の中でも江戸時代を舞台にしたもの+東京(旧江戸)を舞台にした近未来SFという4つの物語とオープニングアニメが綴られることになる。
68分という短い尺ながら、時空を超えたタイムトリップという異次元体験ができる。日本が誇るクリエイタ―たちのアイデアがギュッと凝縮された濃密な時間を、ご家族でお楽しみ頂きたい。
★「オープニングアニメーション」
(デザインワーク作画・監督:森本晃司)
★「九十九」(つくも)
(脚本 監督:森田修平/ストーリー原案・コンセプトデザイン:岸 啓介)
18世紀、職人風の男が深い山中で嵐に遭い、小さな祠に逃げ込む。すると突然祠が大転換し男は違う世界へと吸い込まれる。暴風雨の音など外界の気配を全く感じさせないどこかの座敷にポツンと身を置かれる。すると、奇妙なやぶれ傘や着物に次々と囲まれ……。
世の中に見捨てられた「もの」たちが物の怪と化して旅人を誘い、その悲しい声を届けようとする。安易に使い捨てにしてしまう現代人への警鐘なのか――。そして、旅人がひとつひとつ修理してやると、魂が甦った歓びに歓喜する辺りの複雑怪奇な描写力と、伝統界観を醸し出している。
★「火要鎮」(ひのようじん)
(脚本 監督:大友克洋/キャラクターデザイン ビジュアルコンセプト:小原秀一/音楽:久保田麻琴)
大店(おおだな)ひとり娘お若と隣りに住む同じく大店の息子松吉は幼なじみで、子供のころ将来を誓った仲だった。だが、年頃になると、松吉は放蕩がたたって親に勘当され行方知れずに。お若の方は縁談話が進められ、お若の松吉への想いは常軌を逸した行動へと発展する。
鶴屋南北『好色五人女』にも収められている「八百屋お七による恋する男逢いたさの火付け江戸大火事件」は江戸前期の実話でもある。大友監督は最初全編絵巻物風「静」に描こうとしたらしいが、出火してからはのダイナミックな派手な火事とアクションは「動」の展開で、「江戸の華」とも呼ばれた町火消の活躍として描いている。それこそ長い絵巻物が画面いっぱいに繰り広げられるスケールの大きなスペクタクルシーンの構成力はさすがだ。幼い二人が井戸の周りを駆け回るのどかなシーンもたおやかな風情にあふれている。
★「GAMBO」
(監督:安藤裕章/原案脚本 クリエイティブディレクター:石井克人/キャラクターデザイン原案:貞本義行)
白い大熊を捉えようと戦う武士たち。何のために大熊を捉えるのか不明。人間たちが敵う相手ではない。そこへ空から火を噴く物体が轟音と共に墜落する。山の人々は墜落した物体の中にいた醜い鬼の形相のものを介抱して助ける。ところが、その鬼は村中の若い女性をさらっていく。残るのはまだ幼い少女だけ。そんな時、白い大熊を見つけた少女は近寄り、そっと寄り添う。
アイヌの世界では熊は山の神の遣いとされ、畏怖の念をもって接してきた。そんな白の大熊が少女を守るために身を持って宇宙からの侵略者と戦うシーンの凄まじいこと!侵略者を鬼のようなデザインにしたのも日本的だが、それに立ち向かう英雄を人間ではなく熊にしたのも古来からの日本文化がベースとなっている。江戸時代の山村を舞台にしたSF超大作ばりのスペクタクルは、強い印象を焼き付けることだろう。
★「武器よさらば」
(原作:大友克洋/脚本 監督:カトキハジメ/キャラクターデザイン:田中達之)
近未来の東京。廃墟と化した街にプロテクションスーツを身に付けて現れた5人の男たち。生物を殺害する戦車型無人兵器と生き残りをかけて死闘を繰り広げる。なぜ廃墟となったのか?無人兵器の目的は?彼らを支える基地は?など、説明のないまま5人の兵士が持てる限りの技術でもって戦う姿に、クールなSF世界と計り知れない恐怖を感じた。
30年前、大友克洋監督が『AKIRA』より前に発表した『武器よさらば』をベースにした作品。カトキハジメ監督は、初めて大友監督に会った時、『武器よさらば』に強い衝撃を受けた大ファンだということを述べると、「そんなに好きなら君が監督をやったらいい」ということになり、今回のプロジェクトに参加することになったらしい。まず、パワードスーツ(SP)に驚いたらしい。それまでは、ガンダムのような硬くて重いイメージだったものが、宇宙服のように動きやすいものに。それを30年たった現代に進化させた機能をプラスして、カトキ風にアレンジしたという。
大友克洋監督のコミック『AKIRA』は、人間の本質から哲学、宇宙に及ぶ壮大なテーマを、ダイナミックな造形美や構成力で世界に衝撃を与えた。特にフランスでは、パリは勿論地方都市でも、『AKIRA』のコミック本をはじめ日本のマンガやアニメDVD、さらに人気フィギュアが店頭に並ぶコミックショップが多くなり、その影響力の大きさを実感する。フランスを旅行する際には、キャラクターオリジナルグッズやフィギュアなどを持っていくと、”日本人の通行手形”替りになって親切にしてもらえるほどだ。少なくとも、若い年齢層にはモテるはず。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://shortpeace-movie.com/
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