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『熱波』

 
       

neppa-550.jpg『熱波』

       
作品データ
原題 TABU
制作年・国 2012年 ポルトガル・ドイツ・ブラジル・フランス 
上映時間 1時間58分
監督 監督・脚本・編集:ミゲル・ゴメス  共同脚本:マリアナ・リカルド
出演 テレーザ・マドルーガ、ラウラ・ソベラル、アナ・モレイラ、カルロト・コタ
公開日、上映劇場 2013年7月13日(土)~シアター・イメージフォーラム(東京)、7月20日(土)~梅田ガーデンシネマ、近日公開 京都シネマ、元町映画館にて公開

 

~圧倒的な映像美と抑制された音で綴られる、哀しく深い愛の物語~

 

 前半の現代は35ミリフィルム、後半の回想は16ミリで撮影と、こだわりのモノクロ映像の影と光の織り成す世界に酔いしれる。とりわけ、後半、サイレント映画のようになってからの、音と映像で綴られる愛のドラマは深い余韻を残し、まさに“映画らしい映画”として私たちの前に立ち現れる。

neppa-2.jpg 冒頭、不思議な話が映画内映画としてモノローグで流れる。妻を亡くし傷心した男は遠くアフリカの奥地まで来るが、それでも悲しみから解き放たれず、亡き妻が死に際と同じ衣装で現れる。妻が男を見つめる眼差しは、ワニの瞳のように静謐で美しく、たとえ死が二人を分け隔てても、心はずっと強い絆でつながっているかのよう。この哀しい小編は愛の不可思議さと深さを伝え、映画全体のテーマに重なり、バックで流れるピアノのリズミカルな旋律とともに、深く心に刻まれる。

neppa-4.jpg 前半は現代のポルトガル。中年の独身女性ピラールは、気まぐれで誇り高く、何かと相談事に来る隣人の老女アウロラになぜか心ひかれる。病に倒れたアウロラが死期を前に、一目会いたいと伝えた名がベントゥーラ。

 後半は、ベントゥーラ老人を語り手に、アウロラの手紙の朗読も入ったサイレント映画。時代は50年前。ポルトガルの植民地だった頃のアフリカ。この回想シーンへの場面転換がすばらしい。カフェでピラールを前にベントゥーラがアウロラとの出会いを語りだすや、いきなり音が変わり、カフェの喧騒から、アフリカの広々とした農園の中の屋敷へと、観客は一気に連れ去られる。
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 目前には若く美しいアウロラが現れる。雨が多く、憂鬱な空気に覆われた冬のリスボンから、アフリカの明るい陽射しに包まれ、解放感あふれる世界へと一転する。私たちが目にするのは、若き男女の許されぬ恋。夫の子どもを宿し、幸せな生活を送っていたアウロラは、流れ者のベントゥーラと出会い、恋に落ちる。罪の意識を背負いながらも、愛の力に抗しきれず、逢瀬を重ねる。アウロラへの愛がどんなに深く、大切であったか語るベントゥーラ。強い絆で結ばれた二人は別れようとしても、また磁石のように引きつけあい、とうとう駆け落ちをする…。

 

neppa-7.jpg アフリカの広く明るい草原を二人が楽しそうに散歩する姿の美しいこと。池の水面の反射光がきらきらと人物に映り込んだり、夜の焚火の炎が二人を照らし出したり、夕刻山裾をゆっくりと靄が上がっていったり、白黒の映像美を堪能できる。モノローグの声のほかに、鳥の声、虫の音、水の流れる音といった自然音、車の音等が、その場の空気をリアルに伝える。シーンに応じて、聞こえる音、聞こえない音が巧みに選別され、時に無音となったり、「あたしのベビー(Be My Baby)」といった往年の名曲が流れたり、音楽の使い方も絶品。失意のベントゥーラが苦渋の決断をする場面にアフリカの明るい民族音楽が用いられ、強烈な印象を残す。

 アウロラとベントゥーラとの手紙のやりとりが朗読されるバックに、アフリカの紅茶農園で働く現地の人々の姿が映し出される。植民地時代、村の人たちが黙々と働き、食事の支度をしたり、なにげない一つひとつのシーンが、ものいわぬ瞳とともに心に迫ってくる。この映像の強度は一体どこから生まれるのだろう。失われてしまった何かがここにはくっきりと焼き付けられているかのようだ。

 大阪の劇場ではフィルム上映されるとのこと。何度でも映画館に通い、あの静謐で美しい光と音の世界に浸りたい、そんな映画ファン垂涎の作品。

(伊藤 久美子)

★第62回ベルリン国際映画祭 アルフレッド・バウアー賞、国際批評家連盟賞W受賞

仏カイエ・デュ・シネマ誌2012ベストテン第8位

英サイト・アンド・サウンド誌2012ベストテン第2位

公式サイト⇒ http://neppa.net/

(C) O SOM E A FURIA., KOMPLIZEN FILM, GULLANE, SHELLAC SUD 2012

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