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『終戦のエンペラー』

 
       

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作品データ
原題 Emperor
制作年・国 2012年 アメリカ
上映時間 1時間45分
原作 岡本嗣郎「陛下をお救いなさいまし」(集英社)
監督 ピーター・ウェーバー
出演 マシュー・フォックス、トミー・リー・ジョーンズ、初音映莉子、西田敏行、羽田昌義、火野正平、中村雅俊、夏八木勲、桃井かおり、伊武雅刀、片岡孝太郎
公開日、上映劇場 2013年7月27日(土)~全国ロードショー


★第一部【日本ではタブーだった終戦秘話】


  秘密と謎に満ちた“終戦秘話”に惹き付けられた。“徹底抗戦”を叫んでいた軍はどのように「大日本帝国の敗戦」を受け入れたのか。天皇自身の声で国民にラジオで呼び掛けた玉音放送はどれほどの効果があったのか?  歴史ドキュメントなどで多少の知識はあったが、松竹配給のアメリカ映画『終戦のエンペラー』は、日本ではタブーだったに違いない天皇の戦争責任に言及した意欲作にして問題作。固く鎖されていた「空かずの間」を覗いた気がした。

  1945年8月14日、敗色濃厚の日本はポツダム宣言を受諾、無条件降伏を連合国(米英ソ中)に伝え、昭和天皇は「終戦の詔勅」を録音する。翌15日正午の玉音放送までに強硬派の青年将校らがクーデターを起こし、「音源」を取り戻すべく皇居に乱入する(宮城)事件もあった。ことは簡単に終わりそうになかった。

 emperor-2.jpg GHQの最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥(トミー・リー・ジョーンズ)が神奈川県・厚木飛行場に余裕のコーンパイプ姿で降り立ったのは8月30日。米軍の占領統治が始まる。日本がどうなるのか、日本人はもとより、世界中の誰にも分からなかった。連合国の多くが天皇の裁判を要求する中、マッカーサーはこの問題を、大の親日家のボナー・フェラーズ准将(マシュー・フォックス)に託す。フェラーズは戦前から日本を愛し、戦争中に米国留学中だった女性と交流。「日本兵の心理」を著して米軍の参考書にするほど日本人を知り尽くしていた…。

  戦争で何百万人も犠牲になったこの戦争を「起こしたのは誰か」。マッカーサーは極東軍事裁判で責任の所在を明らかにするため、A級戦犯逮捕を命じる。天皇(片岡孝太郎)を裁判にかけるかどうか、が最大の課題だった。日本を根底から揺るがす大問題に、フェラーズの苦闘が始まる…。

  日本国憲法の「象徴天皇」に親しんだ戦後生まれの団塊世代、平和の世の子供には縁薄い問題だった。だが、その平和をもたらしたのはひとりの親日派アメリ力人だった。

  「天皇制を温存、共産主義ソ連の防波堤に」と考えたマッカーサーは、フェラーズに「この戦争での天皇の役割を探れ」と極秘調査を命じる。司令官の命令書を楯に、彼は強引に禁断の皇居に足を踏み入れる。そこから始まるフェラーズと皇族関係者との攻防がこの映画の見どころだ。

  ベールに包まれた天皇周辺からこんな難問題を調査出来るのか?  A級戦犯として逮捕された東條英機(火野正平)から“証人”に名があがったのは開戦直前に首相を辞任した近衛文麿(中村雅俊)。辞任の理由は「戦争回避のため、米国側と秘密裏に接触したが国務省が拒否したため」。だから日本とアメリカは同罪と主張する。

 emperor-3.jpg 次に、天皇に最も近い内大臣・木戸幸一(伊武雅刀)は姿を見せず、宮内次官・関屋貞三郎(夏八木勲)は、天皇が御前会議で短歌を朗読したというだけ。無罪証明になる文書などどこからも出てきそうにない事態に、さすがのフェラーズも頭を抱えるしかなかった…。  戦犯起訴の期限が迫り、マッカーサーは直接会談を希望。それまでならあり得ない天皇のマッカーサー公邸訪問が実現、“世紀の2ショット”写真が世界を賑わす。

  極東軍事裁判はマッカーサーの思惑通り、天皇は裁かれなかった。フェラーズらが力説したのは「天皇は日本人の神であり、父親である」という点。裁判にかけることは、火薬庫に火を付けるようなもので、事実、日本軍が武装解除したのは天皇の玉音放送のおかげだったとする。

  実際、フェラーズは早くからそう考えていたとみられる。彼は戦前から日本を訪れ、昭和初期に女子大を開校したキリスト信者で国際感覚を持った女性・河井道との親交から日本人の国民性を熟知していた。

  フェラーズと河井の親密な交流は岡本嗣郎の原作「陛下をお救いなさいまし」に詳しく紹介されているが、日本が平和を取り戻せたのはボナー・フェラーズと女傑・河井道によるところが大きい。

  戦後の1971年、日本政府はフェラーズに「勲二等瑞宝章」を授与している。映画ではフェラーズが戦争中に交際するのは若いアヤ(初音映莉子)で映画をロマンチックに盛り上げている。

  奈良橋陽子プロデューサーはかつて『ラスト・サムライ』や『SAYURI』のキャスティングを担当した。きな臭い今の時代に「日本から世界に紹介できるテーマ」として選んだのが『終戦のエンペラー』だった。戦争を始めるのは簡単だが、終わるのはとんでもなく難しい。日本人が身をもって体験した苦難の物語は、奈良橋さんが、映画に登場する祖父(関谷貞三郎)から聞いた実話という。

  歴史を振り返って平和がいかに大事かを訴える…この映画の全編には、過去から学ぶこと。「平和への熱い思い」がこもっている。 

(安永 五郎)


★第二部【困難を極めた“終戦への道”】

  頭カチカチの強硬派軍人を抑えて戦争を終えるのがどれほど大変だったか、はかつて映画でも描かれた。東宝の8・15シリーズ第一作『日本のいちばん長い日』(68年、岡本喜八監督)は冒頭、太平洋戦争をダイジェストで写し、原爆投下→ポツダム宣言受諾からようやくタイトルが出て「終戦の日」の長い1日を描く。一部強硬派の反乱も描かれ、玉音放送のレコードを守る放送局のエピソードもあって終戦がいかに難事業だったかが分かる。大宅荘一原作、橋本忍脚本の映画は緊迫感に満ち、157分間の長尺を一気に見せる力作だった。

  松本清張原作の『球形の荒野』(75年、松竹)は、終戦へ向けて極秘で動いていた男が、反対勢力に命を狙われて家族からも行方をくらますミステリー。“神国日本”の不滅を信じ切っていた勢力に「終戦工作」は大変な暴挙。まして天皇の戦争責任など、許しがたい大罪に違いなかった。

  最近では“もうひとつの終戦秘話”『日輪の遺産』(11年、佐々部清監督)が鮮烈だった。終戦直前に、戦後日本の復興資金として莫大な金塊を山中に隠す20人の女子高生の物語。軍の強硬派から極秘裏に作業するうちに、手違いから悲劇を生んでしまう。

  極東軍事裁判では、小林正樹監督の渾身のドキュメンタリー大作『東京裁判』で全貌が分かる。中では「天皇の戦争責任」は大きなテーマになってなかったように記憶している。マッカーサーにとっては、起訴するまでが勝負だったのだろう。

  アメリカから『終戦のエンペラー』のような作品が出てきたことが驚き。天皇側近だった祖父・関谷貞三郎氏から奈良橋陽子プロデューサーへと受け継がれた「平和への願い」を、次世代につなげていきたい、そんな思いは確かに伝わった。    

(安永 五郎)


公式サイト⇒  http://www.emperor-movie.jp

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