『インポッシブル』
原題 | THE IMPOSSIBLE |
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制作年・国 | 2012年 スペイン・アメリカ |
上映時間 | 1時間55分 |
監督 | J・A・バヨナ |
出演 | ナオミ・ワッツ、ユアン・マクレガー、トム・ホランド |
公開日、上映劇場 | 2013年6月14日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ梅田/TOHOシネマズなんば/TOHOシネマズ二条/TOHOシネマズ西宮OS、ほか全国ロードショー |
~思い知る大津波の恐怖,、そして奇跡の生還~
東日本大震災の後、日本の映画界は地震や津波及び水難事故を描写した作品の公開を控えてきた。中国映画『唐山大地震-思い続けた32年-』は秀作にもかかわらず公開直前に中止され、クリント・イーストウッド監督の津波のシーンがあった『ヒアアフター』は公開中だったが打ち切りとなった。2004年12月26日に発生したスマトラ島沖大地震はインド洋沿岸部に大津波による甚大な災害をもたらした。タイのリゾート地で、スペイン人の家族5人が奇跡的に助かったという実話を、かつてないほどの痛ましいリアルな映像で圧倒するのが本作『インポッシブル』である。
クリスマス休暇をタイのプーケット島にあるリゾートホテルで楽しんでいた一家五人は、いきなり大津波に襲われる。その前に異常な引き潮は見られたらしいが、津波警報はなかった。一家五人は海岸ではなく、ホテルのプールで遊んでいて津波に飲み込まれた。5人がそれぞれに辿った壮絶な生還への道が克明に描かれ、我が身を切るような痛ましさが伝わってくる。
物語は、大けがをした母親(ナオミ・ワッツ)と長男が現地の人々に助けられ病院に収容されるが刻々と悪化していく母親を心配する長男の様子と、父親(ユアン・マクレガー)と幼い次男と三男とが避難場所を転々とする不安な状況を呼応させながら展開される。サバイバルの苦境の中息子を守り、人としてなすべきことを息子に示したナオミ・ワッツの演技が素晴らしい。また、長男を演じたトム・ホランドの母親を救おうとする健気さもまた感動を呼ぶ。
決して安直な感動作でもなければ、娯楽的パニック映画でもない。夫婦と3人の息子たちが辿った驚愕の被災体験をバーチャルに共有しながら、家族を失いかけた恐怖と苦痛と孤独と不安の中を生き抜いた家族の強運を思い知ることができる。多くの人々が家族を失う中、全員生きて再会できたことは、まさに奇跡としか言いようがない。本作ではイギリス人の家族の物語として描かれているが、監督をはじめスタッフはスペイン人である。
製作にあたって、モデルとなったスペインのアルヴァレス・ベロン一家の協力は不可欠だが、恐怖の体験を思い起こさせることは精神的にもハードなことだったろう。それを、「家族の物語は自分たち自身をはるかに超えた大きなものであり、それを語ることは家族にとっても浄化作用になる」と母親のマリア・ベロンさんの指摘があって協力してくれたらしい。ベロン一家へのアプローチの難しさが伺える。
また、リアリティを高めるためロケ地にもこだわり、タイの被災地での撮影を敢行。マリア・ベロンさんもロケに同行し、被災して以来はじめての訪問となる現地で、他の被災者との交流を果たしたという。過去の凄惨な出来事と向き合うには勇気が要る。だが、同じ体験をした人々と恐怖を分かち合うことで癒されることもあるだろう。日本でも、まだまだ恐怖と悲しみをのり越えられずにいる人々は多いと思う。せめて、そうした人々の心の痛みに寄り添える優しい気持ちになれたらと常々思う。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://gacchi.jp/movies/impossible/
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