『パパの木』
原題 | The Tree |
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制作年・国 | 2010年 オーストラリア・フランス |
上映時間 | 1時間40分 |
原作 | ジュディ・パスコー |
監督 | 監督・脚本:ジュリー・ベルトゥチェリ |
出演 | シャルロット・ゲンズブール、マートン・ソーカス、モルガナ・デイヴィス、エイデン・ヤング |
公開日、上映劇場 | 2013年6月15日~梅田ガーデンシネマ、京都シネマ、7月27日~元町映画館 |
~木と交感する少女~
木に触れる。木の肌に耳をつけて木の声を聞く…。木洩れ日がきらめき、葉のさざめきが聞こえる。木を通して生を感じる。木の生と自身の生が響き合う…。8歳の少女シモーンもきっとそんなふうにして、大好きな父の死を受け入れようとしたにちがいない。木の向こうに父を感じ、木を通して父と対話し、父との心の絆を確かめる…。
巨大なイチジクの木の傍らに建つ一軒家に、シモーンは、両親と2人の兄、幼い弟と共に暮らしていた。ある日、父は、家に着く直前、運転中に心臓発作を起こし、ゆっくりと車ごと木にぶつかってそのまま息絶えてしまう。これは、厳しい大自然の中で父の死を乗り越えようとする家族の再生の物語。
シモーンの繊細な表情に引き込まれる。木の梢の中に父の声を聞いてから、シモーンは、木の上に自分のお気に入りの物を運び込み、自分だけの空間をつくる。樹上で父に話しかけたり、好きな本を読んだりする姿が可愛らしい。父がいるという秘密を母ドーンにだけは打ち明け、ショックから立ち直れずにいる母を励まそうとする。感情的で、大人になりきれない母ドーンをシャルロット・ゲンズブールが好演。シモーンに起こされて髪を梳いてもらうシーンがいい。ドーンもまた木の根っこで横になって眠ったりして、木も家族の一員であるかのようにみえる。
半年余り経ち、ドーンは新しい仕事に就き、シモーンの兄もバイトを始め、家族それぞれがショックから立ち直り、日常を取り戻しつつある中、干ばつで根を伸ばそうとする木は、家の土台を壊し、枯れ枝が屋根をも壊していく。ドーンは木を伐採するしかないと覚悟を決めるが、シモーンだけは頑として許さず、身を挺して木を守ろうとする。折しも、大嵐が襲ってきて…。
父以外の男性と仲良くなり、楽しそうにしているドーンを受け入れられないシモーン。家族が笑顔を失うことを父は望んでいないとドーンが説得しても、聞き入れない。シモーンが幼いながらに精一杯、自分の意見を主張し、母とぶつかる姿がいい。
オーストラリアの大自然のおおらかさ、優しさが全編からあふれる。冒頭、父が運転するトラックが広い大地を、家を一軒まるごと引っ張って緩やかに進んでいくロングショットの美しいこと。監督は、時間の移ろいの中で少しずつ表情を変えていく木の表情や、葉のざわめき、動き回る虫たち、木の上から眺める空と、丁寧に風景を映しとっていく。自転車で遊びまわっている子ども達の姿が伸びやかでゆったりとした空気を運ぶ。
穏やかに見える自然も、時に、圧倒的な威力で何もかもを破壊していく。それでも、家族が団結し、強さを取り戻した母が子ども達と共に生き抜こうとする姿が希望を伝える。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://papanoki.com/
(C)photo : Baruch Rafic – Les Films du Poisson/Taylor Media – tous droits reserves – 2010