『いのちを楽しむ―容子とがんの2年間―』
制作年・国 | 2013年 日本 |
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上映時間 | 1時間42分 |
監督 | 松原明 佐々木有美 |
出演 | 渡辺容子 |
公開日、上映劇場 | 2013年6月1日(土)~渋谷シアター・イメージフォーラム、6月15日(土)~シネ・ヌーヴォX にて公開 |
~がんと共に明るく生きるヒント~
どんな人にも死は平等に訪れる。そこで、自分が病気で死ぬとしたら何の病気で死ぬのだろうか?と考えたことはありませんか?人は天災や事故、または大病などで死に直面すると、心のどこかに覚悟のようなものができる。今生きているのをオマケと考えて大胆に生きるか、恐れをなして臆病に生きるか。私は前者を選びたい。丁度、そのお手本を見せてくれたのが映画『いのちを楽しむ』の渡辺容子さんだ。
本作を製作した松原明氏と佐々木有美氏は、当初乳がんで「余命1年」と宣告された友人の渡辺容子さんの「がんと闘わない生き方」を医療問題として映像化しようと思っていたらしい。渡辺さんは、40歳で乳がんを発症し、『患者よ、がんと闘うな』の著者・近藤誠医師を主治医に、手術や抗がん剤などの積極的治療をできるだけ避け、自然に任せた治療を選択して、58歳で亡くなるまでの18年間を生き抜いた。
病気に怯えて生きるのではなく、病気と共に明るくポジティブに生きる渡辺さんの姿は、彼女の率直な性格からか、とても颯爽としてカッコいい。周囲の人々にも喜びと勇気を与えていた。そんな渡辺さんの生き方を活写するように始まったドキュメンタリーが、やはりカメラでは捉えられない苦しい現状を思い知らせることになる。渡辺さんは講演で、「ガンとの壮絶な戦いなんてありません。私はこんなに元気です。皆さん、どうせならガンになりましょう」などと言っていたが、宣告された1年半を過ぎた頃から、骨への転移が次第に苦痛をもたらすようになる。
麻薬系の鎮痛剤も効かなくなり、神経ブロックするにも患部の位置が悪くてできない。ガン末期の苦痛の9割は制止できるとされる方法が、よりによって渡辺さんには効かないとは……。主治医が渡辺さんに詫びる姿が、その無念さを伝えている。ガンが発症した際にダメージの大きな積極的治療をしたとしても、完治することは不可能だという。勿論、がんの種類や個人差はあるので、最適な治療を判断できる医師との出会いも重要だろう。
人類は寿命が延びた分、ガンが発症する割合が増加したともいわれる。もし、自分だったらどちらの選択をするだろうか?ただ、これだけは覚悟しておきたい。元気な内にやりたいことをやろう。生きている内に大切な人に気持ちを伝えよう。金品よりいい思い出を遺そう。いつかは訪れる最期の時に向けて、悔いのない生き方をしたいものだ。そんなポジティブな気持ちにさせてくれるドキュメンタリー映画に感謝したい。「生きている人を大事にして下さい」という渡辺さんの言葉が一番印象に残った。
(河田 真喜子)
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