制作年・国 | 2013年 日本 |
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上映時間 | 2時間7分 |
原作 | 乾緑郎「完全なる首長竜の日」(宝島社文庫刊) |
監督 | 黒沢清 |
出演 | 佐藤健、綾瀬はるか、中谷美紀、オダギリジョー、染谷将太、小泉今日子 |
公開日、上映劇場 | 2013年6月1日(土)~TOHOシネマズ有楽座、新宿バルト9、TOHOシネマズ梅田、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、OSシネマズミント神戸、TOHOシネマズ二条他全国ロードショー |
~鮮烈の脳内世界体験。昏睡状態の恋人を救え!~
物語の半分以上は現実社会ではなく、昏睡状態のまま1年が過ぎようとしている恋人の脳内世界という異色な設定に最初は驚かされた。しかし、現実に限りなく近い脳内世界との行き来を主人公と共に繰り返すうち、私たち自身も現実と仮想の世界の境界が曖昧になる不思議な気分を体感する。『トウキョウソナタ』の黒沢清監督が、CGを駆使したこだわりの映像や音響を最大限に活かしながら、乾緑郎の第9回 『このミステリーがすごい!』大賞受賞作を映画化。人間の内面を探究していく意欲作だ。
幼馴染の浩市(佐藤健)と淳美(綾瀬はるか)は大学時代に再会し、恋人同士だったが、淳美は自殺未遂を起こし、昏睡状態に陥ってしまう。1年後、自殺の真相を知り、昏睡状態から目覚めさせるため、浩市は淳美の脳内に入っていける「センシング」という先端医療を受け、淳美と再会を果たす。マンガ家の淳美は、いつもと変わらぬ様子でマンガを描き続けていたが、なぜか小学生の頃彼女が描いたという首長竜の絵を探してほしいと浩市に懇願するのだった。
脳内世界に入っていく瞬間の、意識を錯乱させるような視覚効果や、淳美が描くグロテスクな漫画の創造物が実体として現れ、未体験ゾーンを覗き見る独特の緊張感が私たちを包む。佐藤健と綾瀬はるかが、それぞれ一人二役のような二つの世界の人格を見事に演じ分け、謎めいた極限状態のラブストーリーを牽引する。真相を解き明かす中盤からラストまでのめくるめく展開は、正に目が離せない。
浩市と淳美が幼い頃過ごした島で封印したある出来事と、その鍵を握る首長竜が姿を現すクライマックスは、まるで別の映画を観ているようなスペクタクル感に圧倒された。懐かしのネッシーを彷彿とさせる首長竜が暴れ狂う中、生死の境にある恋人を取り戻すため果敢に闘うのは誰なのか。脳内世界や空想の生き物、首長竜を独自の手法で表現し、封印したトラウマを解き明かす黒沢清監督ならではの異次元エンターテイメントは、一筋縄ではいかない。(江口由美)