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『グランド・マスター』

 
       

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作品データ
原題 一代宗師
制作年・国 2013年 香港・中国・フランス 
上映時間 2時間3分
監督 ウォン・カーウァイ 
出演 トニー・レオン、チャン・ツィイー、チャン・チェン、マックス・チャン、ソン・ヘギョ
公開日、上映劇場 2013年5月31日(金)~TOHOシネマズ日劇、新宿バルト9、TOHOシネマズ梅田、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、なんばパークスシネマ、OSシネマズミント神戸、TOHOシネマズ二条、T・ジョイ京都他全国拡大ロードショー


~美しく、気高いウォン・カーウァイ流武侠アクション~
 

 香港映画ファンならずとも、ウォン・カーウァイという名前を聞いたことのある人は多いだろう。金城武主演の『恋する惑星』(94)で日本でもブームを巻き起こし、レスリー・チャン、トニー・レオン主演の『ブエノスアイレス』(97)にてカンヌ国際映画祭監督賞を受賞。クリストファー・ドイルのキャメラワークが最高に冴えわたり、美しすぎる男たちがブエノスアイレスで恋にもがき苦しむ姿を、余すところなく映し出した。60年代香港を舞台にした『花様年華』(00)では、梅林茂の音楽にのってマギー・チャンとトニー・レオンによる大人のままならぬ恋が奥ゆかしく描かれ、私もこの映画に心を射抜かれたのだ。

grandmaster-3.jpg 前書きが長くなったが、ウォン・カーウァイ監督6年ぶりの長編最新作『グランド・マスター』は、エレガンスさとこだわりのアクションを散りばめた満を持しての武侠映画だ。構想に17年もかけ、30年代半ばから50年代半ばまでの中国/香港激動の20年間を背景に、ブルース・リーの師、イップマンの人生を描いている。香港映画のお家芸に真っ向から挑んだ最新作を見逃すわけにはいくまい。

 

 本作でイップマンを演じるのは、カーウァイ監督作品常連のトニー・レオン。同じくイップマンを演じたアクションスター、ドニー・イエンなら当然のように映る痛快カンフーアクションも、トニー・レオンが決めると新鮮だ。そのキレの良いアクションぶりに目をみはる。そして男性社会の武侠世界において、宋師パオセンの娘として家の技を守るため、孤独な闘いに身を投じるルオメイをチャン・ツィイーが熱演。秘かな恋を胸に一生独身を貫き通した一途なルオメイの生き様が、イップマンの生き様と交差し、男臭さを感じる武侠映画に新しい風を吹き込んでいる。

grandmaster-2.jpg イップマンが「人生の春」と語る37年佛山陥落以前は、煌びやかな娼館が闘いの舞台となる。内装の優雅さに目を見張る一方、娼婦たちの衣装一つ一つもアンティーク調で、この質感や衣装へのこだわりを観ていると、武侠映画であることを忘れるほどだ。前述の梅林茂による音楽も気分を高揚させてくれ、カーウァイ監督作品の芳醇な世界感に浸りきれる。佛山陥落以降は、屋敷を没収され、貧しくとも日本軍に心を売らないと意志を貫くイップマンと、娼館での勝負中、空中で交わした視線でイップマンにほのかな恋心を感じたルオメイの、女の幸せを捨て、武侠と復讐に生きる姿が描かれる。チャン・ツィイーが繰り広げる雪の中のアクションシーンは、壮絶かつ美しい。

 

grandmaster-4.jpg ここからの展開の早さにはやや驚かされたが、今まで60年代香港を撮り続けてきたカーウァイ監督が、戦後間もない50年代の香港を描いたところは興味深い。イップマンと同時期に香港で新しい流派を起こしたカミソリ役のチャン・チェンも、少ない登場シーンながら強烈なインパクトを残した。そして同じく香港に渡り、自らの死期を察して最後の逢瀬を提案したルオメイに、「恨みも借りもない 二人の間にあるのは出会えた縁だけだ」とイップマンがかけた言葉は、単なる愛の言葉以上の深みがある。グランド・マスターと呼ばれる宗師たちの技だけでなく、心の気高さや尊厳ある生き方を真摯に描いた武侠映画に、歴史ロマンの香りが華を添えた。(江口由美)

公式サイト⇒http://grandmaster.gaga.ne.jp/
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