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『嘆きのピエタ』

 
       

pieta-550.jpg『嘆きのピエタ』

       
作品データ
原題 PIETA
制作年・国 2012年 韓国 
上映時間 1時間44分
監督 キム・ギドク
出演 チョ・ミンス、イ・ジョンジン、ウ・ギホン、カン・ウンジン、チョ・ジェリョン、イ・ミョンジャ、イ・ウォンジャン他
公開日、上映劇場 2013年6月15日(土)~Bunkamuraル・シネマ、6月22日(土)~梅田ガーデンシネマ、初夏~京都シネマ、8月~シネ・リーブル神戸 他全国公開

 

~キム・ギドクの世界全開!一筋縄ではいかない恨(ハン)~

 

 2011年のキム・ギドク監督『アリラン』を観た時、彼もバートルビーなのかなと一瞬思った。バートルビー症候群というのがあって、それは、世界に対してネガティヴな思いを抱くようになり、ものを書くことができなくなった、あるいは意図的に書くのをやめてしまった作家の状況を指す言葉である。映画界に背を向け、隠遁生活を送っている自分自身をカメラの前にさらけ出す彼の姿は、どこかうらぶれて、哀しかった。でも、いや違うぞと思い直した。彼は、もっとしたたかであるはず。表現者としてのしたたかさ。そうして、翌年に発表したこの新作で、ヴェネツィア国際映画賞金獅子賞だ。ほらね、キム・ギドクが蔭で叫んでいただろう“I’ll be back!”の声が何度もこだまするようだ。エキセントリックで、ずっしりと重量級で、観る者の胸をぐいぐいえぐってくる意欲作だ。

pieta-1.jpg ソウルの町工場が立ち並ぶ界隈で、あくどい借金の取り立てを生業としている男ガンド。天涯孤独の彼は、情のひとかけらも持ち合わせず、債務者たちを無残に崖っぷちに追い詰めていく。そんな彼の前に一人の女が現れ、昔、ガンドを捨てた母親だという。いつも目に涙を溜め込んでいるように見えるこの風変りな女ミソンは、ガンドの後を追い回し、私生活にずかずか踏み込んでくる。哀しみ、怒り、慈しみなど多様な感情をくすぶらせているかのような、チョ・ミンスの謎めいた演技に目が離せなくなる。

pieta-2.jpg 『ピエタ』…ミケランジェロのあの有名な彫刻。十字架から降ろされたイエス・キリストを抱く聖母マリアを描いたものだが、サン・ピエトロ大聖堂に安置されている実物を見た時、その意外な静謐さに打たれた。この映画のミソンがクライマックスでつぶやく「ガンドが可哀そう」という言葉に、ピエタの静謐と、朝鮮民族の恨(ハン)という情念がぶつかって融け合ったような気がした。恨とは、単なる恨みでなく、自責の念や無念の気持ちなども含んだものとされている。キリスト教との縁がある監督が、エンディングの音楽としてパンソリを使う、その恨の想いの在りかについて考えさせられる。ラスト、大地に刻印される赤い線。強烈な映像的インパクトを残すのだが、債務者が法的な罪さえ問われるのではないかという懸念を抱くのは、私だけではないだろう。ガンドがなぜそういう選択をしたのか。これも、恨につながっているのかもしれない。

(宮田 彩未)

公式サイト⇒ http://www.nagekinopieta.com/

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