『欲望のバージニア』
原題 | Lawless |
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制作年・国 | 2012年 アメリカ |
上映時間 | 1時間56分 |
原作 | マット・ボンデュラント |
監督 | ジョン・ヒルコート |
出演 | シャイア・ラブーフ/トム・ハーディ/ミア・ワシコウスカ/ジェシカ・チャスティン/ゲイリー・オールドマン/ガイ・ピアース |
公開日、上映劇場 | 2013年6月29日(土)~丸の内TOEI、梅田ブルク7、T・ジョイ京都、7月6日(土)~神戸国際松竹、他全国順次公開 |
~バージニアでは英雄!? 禁酒法が生んだ伝説の3兄弟~
実話に基づく3兄弟、主人公ボンデュラント兄弟に「絶対死なない」伝説があったという話が驚きだった。
無法者が主役の映画はアメリカ映画史上数多いが、そのほとんどは、主人公たちが壮絶な最後を迎えて終わった。無法者映画の最高傑作『俺たちに明日はない』(67年)のボニーとクライドはカップルで銀行強盗を繰り返したあげく、待ち伏せた警官隊に83発もの銃弾を浴びせられ蜂の巣になった。ボニー(フェイ・ダナウェイ)の金髪が銃弾に揺れ、血まみれになるシーンは残酷で美しく、鮮烈だった。当時「映画芸術」誌は「反体制への鎮魂歌」と評した。
83発の衝撃はその後に花開いたアメリカン・ニューシネマの幕開けになった。69年『イージー・ライダー』、『明日に向って撃て』、『真夜中のカーボーイ』、70年『いちご白書』、『ウッドストック』…。ベトナム反戦運動から盛り上がったフラワームーブメントは映画に変革をもたらした。
アメリカには西部劇を中心に古くから無法者映画の伝統と系譜があり、主流は反権力だった。それがハリウッドの姿勢でもあったが、厳しい検閲や世論もあり、悪は最後には非業な死を迎える、というのが決まりごとでもあった。
典型的な例はジェームズ・キャグニー『汚れた顔の天使』(38年)。主人公キャグニーは暗黒街の顔役で子供たちにも名をとどろかせる人気だったが、悪運尽きて逮捕される。警察は、死刑宣告を受けた男が英雄視されることを恐れ、子供たちの前で“命乞い”するよう頼む。悪漢は惨めに死んでいかなければならない、それが映画のお約束でもあった。
西部劇の定番として何度も映画化されたジェシー・ジェームズやビリー・ザ・キッドも最後は追い詰められて死ぬ。
“ニューシネマ”でもその伝統は引き継がれ、『イージー・ライダー』ではバイクで旅する2人の自由な青年は民間人に銃撃されてあっけなく死に、西部劇『明日に向って撃て!』のブッチ・キャシディ&サンダンス・キッドの強盗コンビも一斉射撃を浴びせられるラストシーンで終わる。『真夜中のカーボーイ』のダスティン・ホフマンは悪漢とは言えないが、目的地に着いた時には息絶えていた。自由への渇望さえ断罪された。
『いちご白書』で大学に立てこもった学生たちは、ジョン・レノンの「ギブ・ピース・ア・チャンス」を歌いながら、突入してきた警官隊に蹴散らされた。それは戦いの終わりの合図、ベトナム反戦運動が戦争終結で下火になることへの予感だっただろうか。
こうした流れの中で見ると“絶対死なない”ボンデュラント兄弟はまさしく驚き。禁酒法の1930年代、怪力の長男ハワード(ジェイソン・クラーク)、度胸と気迫の次男フォレスト(トム・ハーディ)、末っ子ジャック(シャイア・ラブーフ)の3人は、バージニアで密造酒ビジネスと不死身伝説で有名だった。
性格の異なる3人だが、兄弟愛と結束の強さで他を圧倒する。ジャックは牧師の娘バーサ(ミア・ワシコウスカ)に一目惚れ。兄弟の酒場には色っぽいマギー(ジェシカ・チャステイン)がやって来て兄弟を悩ませるが、一方新任の取締官レイクス(ガイ・ピアース)が着任、兄弟に高額な賄賂を要求する。フォレストは「誰にも屈しない」と豪語し、冷酷残忍なレイクスの闘争心に火を着けて、無法兄弟VS冷酷取締官の死闘が始まる…。
ジャックがレイクスに傷めつけられ、フォレストもまた刺客に喉を切られるが、彼は「自分で歩いて病院に行った」と不死身伝説を証明する。
兄弟を孤立させるために封鎖された橋が最終決戦の場。レイクスに殺された親友の敵討ちのために橋へ向かうジャック、追いかける兄弟…。混沌とした状況の中、どちらが悪か正義か、判断しようもないが、いかにも人間くさい兄弟に肩入れしてしまうのがアメリカ映画の伝統。愛と誇り。これほど生きることに執着する無法者たちのあくなき執念が、アメリカ開拓時代、その後の発展の基礎だった、と想像出来る。アメリカ映画の原点を見た。
無法時代の元凶、禁酒法は1919年可決、15年続き、アル・カポネをはじめ数多くの伝説のギャングを生み出して33年にようやく廃止された。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://yokubou.gaga.ne.jp
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