『エンド・オブ・ホワイトハウス』
原題 | OLYMPUS HAS FALLEN |
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制作年・国 | 2013年 アメリカ |
上映時間 | 2時間 |
監督 | アントワーン・フークア |
出演 | ジェラルド・バトラー(プロデューサー兼任)、モーガン・フリーマン、アーロン・エッカート、アンジェラ・バセット、メリッサ・レオ、アシュレイ・ジャッド、リック・ユーン、ラダ・ミッチェル |
公開日、上映劇場 | 2013年6月8日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国ロードショー |
~『マーズ・アタック』以来!? ホワイトハウス陥落!~
現実の先取りか、はたまた予感の“過剰反応”か。全米大ヒット作『エンド・オブ・ホワイトハウス』は、北朝鮮の精鋭部隊にアメリカの中枢、ホワイトハウスが占拠される、という“あり得ないけどあり得る”極限状況のポリティカルサスペンス。現実に北朝鮮がミサイルを打ち上げ、核実験にも成功して、緊迫状態がいまだ続く今、リアリティーに粛然としてしまう。アメリカの懸念は本モノだった…。
ハリウッドが現実に追い付かず、政治絡みのアクション・サスペンスが鳴りをひそめたのは「9・11」からだった。高層ビルに激突する2機の飛行機、崩れ落ちるビルという強烈なスペクタクルシーンの前に映画は一時、存在意義を失った。
事実、シュワルツェネッガーがテロで妻子を失った消防士を演じる復讐もの『コラテラル・ダメージ』(01年)は公開延期になり、すでに出来上がっていた『スパイダーマン』(02年)のチラシもよじ登っていた貿易センタービルから変更を余儀なくされた。以後、政治サスペンス映画はめっきり減り、イスラム社会相手の戦争映画も精彩を欠いた。 現実に、アメリカはアフガニスタンを攻撃、イラク侵攻と“報復”へと動いた。映画の出る幕はなかった。ハリウッドなりに事件を昇華するまでには10年かかった。2010年、ラッセ・ハルストレム監督『親愛なるきみへ』は戦場へ行った恋人の帰還を待つ彼女がテレビで“9・11”を見て絶望し、ロバート・パティンソン主演の『リメンバー・ミー』は主人公が最後に父親に会いにいく場所が貿易センタービル。
翌11年、トム・ハンクス主演『ものすごくうるさくてありえないほど近い』は事件で父を失った悲痛な少年の物語だった。事件が一般市民にどれほど大きな傷を与えたか、これらの映画は実に良く物語っていた。 映画が現実に追い付いたのは昨年の話題作『ゼロ・ダーク・サーティ』。ビン・ラディン暗殺という国家的課題に命をかけたCIA女性分析官(ジェシカ・チャステイン)の物語。事実に基づく物語とジェシカの演技は高く評価された。
“報復”を果たした余裕か、『エンド・オブ・ホワイトハウス』は現実に世界情勢に深刻な脅威を与える北朝鮮が敵役。“鉄壁の要塞”のはずだったホワイトハウスが、わずか13分でテロリストに占拠される。真っ黒な輸送機がワシントンに侵入、警告する戦闘機を撃ち落とし、ペンタゴンに特攻よろしく墜落する冒頭から、畳み掛けるテンポの良さに引き込まれる。ハリウッド娯楽大作にももはや迷いは消えた。 大統領(アーロン・エッカート)が人質に取られ、特殊部隊も突入失敗、規程通り、大統領代理の下院議長(モーガン・フリーマン)がリーダーに就いた臨時司令部は苦境に立つ。絶望の中、一人の男が内部への侵入に成功する。この男マイク・バニング(ジェラルド・バトラー)は元シークレットサービスの腕利きだったが、大統領夫人の命を守れなかった事故に責任を感じて現場を離れた男だった。絶体絶命の危機の中、彼はたった一人で凶悪なテロリスト軍団に戦いを挑む…。
“テロリストの脅威”はどこに敵がいるか分からないこと。韓国大統領の警備責任者や、同じく警備に当たる元同僚…。誰が敵で誰が味方か、判然としないところは、テロリストから大統領を守る男を描いた人気テレビドラマシリーズ「24」と同様、きわめてサスペンスフルだ。
テロリストの要求は「米第7艦隊の撤退」と「南北の軍事境界線にいる米軍の撤収」。アメリカが要求を飲めば韓国は3日で陥落する。核爆弾の作動コードを入手した彼らの狙いは“朝鮮戦争の継続”そして勝利することだった…って、これも先日、現実に北の要求として話題に上った話。きちんと現実を踏まえて物語を展開するハリウッドのしたたかさも甦った。
ヒーローは定番通り、腕の立つはぐれもの。『ダイ・ハード』(88年)のブルース・ウィリスは占拠されたビルに妻を探して入り込んだ刑事、『沈黙の戦艦』(92年)のスティーヴン・セガールは、元特殊部隊員のコック、最近では『ボーン・レガシー』(12年)のジェレミー・レナーが鮮烈だ。一度任務に失敗した男の“敗者復活戦”はこれ以上ない最高の舞台で繰り広げられ、マイクはアメリカだけでなく世界の危機を救う。そう言えば、公開された3月、『エンド・オブ・ホワイトハウス』はウイリスの『ダイハード/ラスト・デイ』を抜いてトップに立った。テロリストのターゲットは変わっても、ヒーローの有り様は変わらない。
どんな国家相手、テロ組織だろうと、世界を救うために自らの命をかけて死に物狂いの戦いを挑むのは国の要員ではなく、主人公の熱い正義感にほかならない。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://end-of-whitehouse.com/
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