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『オデット』

 
       

odetto-550.jpg『オデット』

       
作品データ
原題 Odete
制作年・国 2005年 ポルトガル 
上映時間 1時間38分
監督 ジョアン・ペドロ・ロドリゲス
出演 アナ・クリスティーナ・ド・オリヴェイラ、ヌーノ・ギル、ジョアン・カレイラ
公開日、上映劇場 2013年4月19日(金)~26日(金)までシネ・ヌーヴォにてレイトショー(4月21日(日)は休映) 以降シネ・ヌーヴォXで上映

 

~倒錯的な世界に戸惑いつつも、はまる楽しさ~

 

 相当に倒錯的で変わった作品。この変わりぶりは一度観たら忘れられない。濃厚なキスシーンのアップで始まり、カメラがひいていくと、男性同士とわかる。記念の指輪を交わしたばかりの若い二人の別れがたい姿を長回しで追う。しかし、数分後、悲劇は起こり、ルイはボーイフレンドのペドロを交通事故で亡くす。

 ペドロと同じアパートに住んでいたオデットが、どういうわけか、ペドロの子どもを妊娠したと思い込む。映画は、死者をも巻き込んだ3人の三角関係をメインに進む。このオデットの狂いぶりが強烈。彼女が子どもを欲しがっていることは、最初のスーパーマーケットでのシークエンスで示される。恋人に子どもがほしいと打ち明け、反対されると、激怒して、恋人を全裸のまま部屋から放り出す。翌日、謝りのメールを入れても、冷たい返事がくると、携帯電話を床に投げつけて壊してしまう。感情の起伏が激しいオデットが、なぜか、妊娠したという思いにとりつかれていく。一体、何がきっかけなのか、わからないまま、彼女が次に何をしでかすのか、いつのまにか画面にくぎ付けになっていく。ふいに強い風がオデットのアパートの部屋に吹き込み、青いカーテンが風に揺れる、劇的な瞬間はそのときなのか、あるいは、通夜の晩、棺におさめられたペドロにそっと口づけをするルイの姿を、通夜客の一人のオデットが寝たふりをしながら盗み見た瞬間なのか、どの場面もさりげなく提示され、この淡々とした語り口もいい。オデットのふるまいの一つひとつは理解しがたくても、一体いつ彼女が死者ペドロとみえない恋に落ちたのか、あるいは、恋ではなく、妊娠したという思い込みが、いつ天啓のように彼女に舞い降りたのか、考えてみればみるほど、深みにはまっていくおもしろさがある。人を戸惑わせるのが映画のおもしろさとすれば、こんなおもしろい映画はない。

 画面で起こっていることが、外見的には、狂って見えても、オデット本人にとっては、あまりに切実で自然なこと。真剣そのものの彼女の姿は、なんとも魅力的で、わけのわからない狂いぶりが、どんどん愛おしくみえてくる。シーン転換の唐突さもおもしろい。冒頭、恋人を亡くしたペドロが泣き崩れる場面に続くのは、スーパーマーケットののんびりした店内。あえて真逆の場面をつなげる意外性が心地よい。夜中、アパートを追い出されたオデットが、右手で乳母車を押し、左手でキャリーバッグを引っ張りながら墓場へと歩いていくロングショット、横移動の画面のシュールなこと。この乳母車を押す音が、スーパーマーケットで店員だった彼女がローラースケートをはいて店内を滑っていく音を呼び起こすのも一興。墓場にこれだけ執着した映画もないだろう。

 ラストシーンを一体どう感じるか。そのとき、劇場に笑いが起きるのか、あるいは、当惑の吐息が聞こえるのか…。ぜひ劇場で、たくさんの観客の方々と共に味わってほしい。

(伊藤 久美子)

★公式サイト⇒ジョアン・ペドロ・ロドリゲス映画祭実行委員会《DotDash!》⇒ http://dotdashfilm.com

★関西での「ジョアン・ペドロ・ロドリゲス レトロスペクティヴ」の上映予定⇒ http://dotdashfilm.com/?page_id=471

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