『桜、ふたたびの加奈子』
制作年・国 | 1時間46分 |
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上映時間 | 2013年 日本 |
監督 | 監督・脚本・編集:栗村実、 音楽:佐村河内守 |
出演 | 広末涼子,稲垣吾郎,福田麻由子,高田翔,江波杏子 |
公開日、上映劇場 | 2013年4月6日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、他全国ロードショー |
~去りゆく者に祈りを,留まる者に平安を~
加奈子という女児の葬儀が執り行われている。重苦しい幕開けだが,彼女は白い光の中に旅立っていく。容子は,入学式の朝,5歳の娘を交通事故で亡くした。母親の視点から輪廻転生が崇高に描かれる。容子は,絶望の淵で娘の魂に触れ,生まれ変わりを信じた。その先には容子自身の転生さえ見えてくる。彼女の自責の念が生み出す幻覚だという俗世の発想を軽く超えていく。満開の桜の妖しさと儚さが生み出す幻想に心地良く惑わされる。
音楽が映像と相俟って,原作を上回る緻密な心理描写で迫ってくる。人々の心情と情況を的確につかみ取って色濃く表現する音楽。佐村河内守が生み出す弦楽四重奏曲だ。入学式の朝の不安を掻き立てる音色。一周忌では悲しみが渦巻き,加奈子の魂が容子から離れたときには不安と焦燥が広がっていく。胎児の鼓動に呼応する穏やかな光のような音色。容子が転生した加奈子を抱いて走るときには高らかに響き,海辺の2人を優しく抱擁する。
そして,原作の主題と情景を巧みにすくい取って美しく構成した映像。視覚的な効果を狙って原作を補正している。ひき逃げという生々しさは拭い去られた。空のベビーカーを押して歩く女性は,ミステリアスな空気を醸すと同時に,か弱そうだがタフな母親像を見せる。ガラス越しに手の平のホクロを合わせる容子と加奈子は,隔てられた空間にいても心が通じている。加奈子の祖母が店番をする古書店では,過去が現在の中で脈打っていた。
満開の桜の下では,非現実のような現実が生まれても不思議ではない。やがて現実のような非現実の中に足を踏み入れたことに気付く。初七日に自死を図った容子を救った110番通報。走り去った飼い犬ジローとの約3年ぶりの再会。この世にいない加奈子との再会は束の間だからこそ美しく輝く。その輝きを慈しむような旋律が流れる。加奈子は会えないけどいないんじゃない。生き残った者がその境地に達したとき,死んだ者も救われる。
(河田 充規)
公式サイト ⇒ http://sakura-kanako.jp/
(C)2013「桜、ふたたびの加奈子」製作委員会