『ある海辺の詩人 -小さなヴェニスで-』
原題 | IO SONO LI |
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制作年・国 | 2011年 イタリア、フランス |
上映時間 | 1時間38分 |
監督 | 監督・原案・脚本: アンドレア・セグレ |
出演 | チャオ・タオ、ラデ・シェルベッジア、マルコ・パオリーニ、ロベルト・チトラン、ジュゼッペ・バッティストン |
公開日、上映劇場 | 2013年3月16日(土)~シネスイッチ現座、3月30日(土)~シネ・リーブル梅田、4月6日(土)~シネ・リーブル神戸、初夏~京都シネマ ほか全国順次公開 |
~孤独と郷愁が二人の魂をつなぐ~
詩人の言葉はシュン・リーの心に届いただろうか。二人は、イタリアの漁師町キオッジャで出会った。詩人と呼ばれる初老の漁師ベーピは、毎日のように、海に面した小さな酒場(オステリア)で仲間達とともに過ごす。中国からやってきたシュン・リーは、息子を呼び寄せるため、店で懸命に働く。ふとしたことで、二人は、故郷や家族のことを語りあうようになる。海の近くに住み、父親も祖父も漁師だったと話すシュン・リー。ベーピもユーゴスラビアからやってきた身で、遠い故郷を思う孤独と、海への思いが、二人の心をつなぐ…。
小さなベニス”と呼ばれる、ラグーナ(潟)に浮かぶキオジャの古い街並みが美しい。潮の香りが漂い、柔らかい波の打ち寄せる音が聞こえてきそうだ。オステリアに集うベーピの仲間達の、気取らず、日々を楽しむ姿が魅力的だ。シュン・リーが、中国の詩人“屈原の祭り”と称して、川面に燈明を浮かべるように、浴槽に小さな赤い灯篭を浮かべるシーンが美しい。その祭りのことを聞いたベーピが、海水が満ちあふれ、オステリアの床が水浸しになった日、小さなろうそくを水に浮かべてシュン・リーに見せる。このときのベーピの屈託のない笑顔が愛おしい。
しかし、親子ほどに年が離れ、民族の異なる二人の友情、親愛を、小さな街の人々は許さなかった。中国人の雇主から、息子を呼べなくなると言われ、シュン・リーはベーピによそよそしくなる。急に冷たくなった彼女の真意がわからず、ベーピは、荒れて喧嘩をし、心配する仲間を振り払い、一人よろめきながら帰っていく。その後ろ姿から老いと寂しさがにじみだす。
シュン・リーを演じるのは『長江哀歌』のチャオ・タオ。口数も少なく、淡々とした俳優達のたたずまいと、静謐なドラマの奥底から、深い哀しみと慈しみが伝わってくる。ベーピがシュン・リーのためにできるのは、言葉を、詩を送ること。最後に彼女に届けられた言葉が観客の胸を打つ。束の間とはいえ、心を打ち解けあえた思い出と、肩を寄せ合って海を見つめた記憶は、きっとベーピの生を温かく彩り、シュン・リーのこれからの人生への励ましとなったにちがいない。ぜひ、光きらめく海と灯篭の灯りと詩の響きをスクリーンで味わってほしい。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://www.alcine-terran.com/umibenoshijin
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